帰りのSHRが終わってさあお家に帰ろうと鞄を肩にかけたら、きゃあきゃあとクラスメイトのおんなのこたちが騒ぎ出した。その中のひとりにどうしたの?と尋ねれば、あのね!正門のとこにめちゃくちゃかっこいいひとが立ってるんだって!と興奮気味に返されました。へえーとだけ答えて帰ろうとすれば、名前ちゃんは興味ないの?とすごく驚いたように首を傾げられた。かっこいいひとに興味なんてない。だって、まさくん以上にかっこいいひとなんていないもん。でもそんなこと言えないから、適当にあんまりないかなーって応えてばいばーいと手を振って教室を後にする。

名前はずっとまさくん一筋だったから、おとこのこを弄んだことも色目を使ったこともないけど、なぜか周りからはそういう風に見られることが多いの。チャラくて軽いひとは苦手だし、おとこのことふたりで遊びに行ったりも絶対しないのにね。おしゃれが好きだから、名前に合うように制服を着崩したり、髪染めたりしてるけど、意外と硬派なんです。それに、ピンクが好きなのは昔からだし、リボンとハートが好きなのも昔っから。別にかわいこぶってる訳じゃないんです。でも名前のこと、ちゃんと理解してくれるお友だちも、頼りになる先輩も、愛してくれる家族もいる。それになにより、まさくんがいるんだもん!どんなに他のひとから誤解されてても、まさくんにだけ、名前の好きが届いてればいいの!今日帰ったら早速まさくんのお家行こうかな、あれ、でもまさくんのマンションの場所、覚えてないかも…。なんて下駄箱でローファーに履き替えながらぼんやりとしていれば、正門前におんなのこたちの固まりが見えた。よく見れば、おんなのこたちは正門に身体を預けているひとの周りを遠巻きに囲って、その光景におとこのこたちもちらほら足を止めていた。特別興味もなくその横を通り過ぎようとすれば、名前、と大好きな声で名前を呼ばれた。

「…まさ、くん?」
「遅かったじゃねえか」

声のした方を見れば、まさくんは片手を上げながら名前の方にやってくる。まさくんが歩くたびに道を空けるようにおんなのこの輪が両側に退くから、まるでモーセの紅海だなあなんて現実逃避しかけた。

「…って、な、なんでまさくんがここにいるの?!」
「Ah?可愛い彼女を迎えに来て何が悪い」
「べ、別に悪くないけど…連絡してくれればすぐに来たのに!」
「Sorry、驚かせたかったんだよ。…驚く名前の顔も、cuteだからな」

名前の手を取ったまさくんは左手で名前の右手に指を絡ませ、右手で名前の髪をひと房とって、ちゅっとくちづけた。途端に真っ赤になる名前のほっぺと、きゃああああと黄色い声をあげる周りのおんなのこたち。なんの反応も出来ずにただ真っ赤になってまさくんを見上げていれば、妖艶な笑みを浮かべたまさくんが名前の耳元で甘く囁く。

「続きは、帰ってからな」

思わず腰が砕けそうになったけど、そこはさすがまさくんというか、まさくんは名前の腰をぐいと引き寄せ、正門前に停めていたらしい青いスポーツカーに名前を乗せると、何事もなかったかのように学校を後にした。



110911