お互いの誤解も解けて、本当の両想いになれたまさくんと名前。名前はうれしくってうれしくって、ずっとまさくんにくっついていた。まさくんもずっと名前の頭をなでてくれてて、まるで離れてた時間を取り戻そうとしてるみたい。まさくんの胸に顔をうずめてすんすんとまさくんのにおいを胸いっぱいに吸う。洗剤だけじゃない、まさくんのにおい。懐かしいにおいに胸がきゅうっと締め付けられ、まさくんの胸板にぐりぐりと額を押し付けた。その時、不意に聞き慣れた着うたが名前の鞄から流れ始める。

「あ、電話…」

名残惜しいけど、まさくんの胸から離れて、鞄の外ポケットからピンクの携帯を取り出す。画面に映る番号は見慣れたもの、表示された名前は鶴ちゃんだった。

『もしもし名前ちゃん!?何かあったんですか!?』

通話ボタンを押すなり耳に飛び込んできたのは、鶴ちゃんの大慌てな声。

「なにかって、なにが?」
『最近名前ちゃんに付き纏ってた殿方がぬーっと怖い顔して歩いてたんです!大丈夫ですか!?何か変なことされてないですか!?』

電話の向こうの鶴ちゃんは本当に名前のことを心配してくれてるみたいで、あわあわという効果音が聞こえてきそうなくらい。くすくすと笑いながら電話口で事情を説明しようと口を開いたときだった。

「むぐっ」

突然後ろから伸びてきた大きな手のひらが名前の口元を覆った。言わずもがな手の主はまさくんなんだけれど、電話中にどうしたんだろうと振り返ろうとしたら後ろからぎゅっと抱きしめられた。びっくりして固まる名前の手からするりと携帯を抜き取ると、まさくんはぶちりと電話を切った。切れる直前に鶴ちゃんの名前を呼ぶ声が聞こえて、手のひらの下、無駄だとわかっていたけど「んー!んー!」と講義の声をあげた。電話を切ったまさくんはそのまま電源ボタンを押し続け電源を落とす。そしてそのまま携帯をを名前の鞄に放った。

「なにするのまさくん!」

ぷはっとまさくんの手から抜け出し、まさくんを見上げる。まさくんはぶすっと不機嫌な顔をしていた。

「お前は今日から俺のものなんだから、勝手にほかのやつと喋ったらだめだろ」

繰り出される言葉はなんとも冗談くさいのに、まさくんの声は至って真剣そのもので。

「で、でも今の電話はおんなのこで…」
「んなの関係ねぇよ。お前の声を聞いていいのは俺だけだ」

むすーっとした顔でぎゅうぎゅうとわたしを抱きしめるまさくん。言われてることはすっごい理不尽なのに、怒るどころかきゅんきゅんと胸が高鳴っちゃってるわたしは、どれだけまさくんのことが好きなんだろ。

「まさくんまさくん、あのね、やきもち妬いてもらえるのはすっごくうれしいんだけどね、ちょっとそれはむつかしいよ」
「…じゃあ俺も他の女と喋るぞ」
「うん、いいよ」
「…妬かないのかよ」
「まさか!本当はすーっごくヤだよ。…でも、わたしはまさくんを信じてるから」

くるりとまさくんの腕の中で180度回転。まさくんの背中に手を回してぽんぽんと背中をたたく。まさくんの吐息が首にかかってくすぐったい。

「だから、まさくんも名前のこと信じて?」

そうにっこり笑って告げれば、まさくんはがくっと肩を落として脱力する。

「…I can't match you」
「え、なに?名前おばかだから英語わかんないよ!」
「わかんなくていーよ」

さっきとは打って変わって鼻歌を歌い出しそうな勢いで機嫌がよくなったまさくん。ぐいっと顎に手を添えられ、まさくんを見上げるかたちになる。

「しょうがねーから友だちは大目に見てやる」
「わーい!ありがとまさくん!」
「But、男とは一切しゃべんなよ?守れなかったらお仕置きだ」

にやりといやらしい笑みを浮かべたまさくんがまたちゅっと触れるだけのキスを名前の口唇に落とす。男の子としゃべらないっていうのはちょっと大変かもだけど、大好きなまさくんのためだもん、頑張らなきゃ。
まさくんの優しいキスにうっとりと目を閉じながら名前はひっそり心の中で決意したのでした。



110711