日々の大学の講義や生活のためのバイト。家にいてもレポートや課題に追われ、自分の時間なんて睡眠時間くらいしかとれない。それでも勉強を疎かにするわけにはいかなくて、必死に課題と実習をこなす毎日。疲れている自覚はあるけれど、自覚があるだけマシだと自分の体に鞭を打つ。自分はまだまだ大丈夫がんばれると自己暗示を繰り返して眠りに就く。周りからはそんなわたしがとても危うく映っているらしく、本当に大丈夫かとか休めと毎日のように言われる。つい先日は講義をとっている憧れの教授にすら心配されてしまった。そんなにひどい顔をしてるのかと鏡を覗き込んだけれど、普段どおりの自分が映し出され特に異常は見られない。講義の内容だってちゃんと頭に入ってるし、授業にもついていけてる。体はダルいけれど特にどこかが痛いとかはない。どうしてみんなそんなに心配するんだろうかと首を傾げるばかりの今日この頃。
そして今日、久しぶりに会った彼氏は会うなりわたしの首根っこを掴んでベッドへと連行した。

「え、え、え」
「名前ちゃん…?俺様いっつもなんて言ってるっけ…?」

昨日干したばかりでふかふかの自分のベッドの上で正座させられるわたしと、ベッドサイドで仁王立ちになる佐助。くろーいオーラと般若を背後に纏わせた佐助は有無を言わせぬ圧力を放ちながら腕を組む。久しぶりのお怒りモードに、冷や汗が頬を伝った。

「えー、っと、無理は、しちゃいけま、せん」
「だよねだよねーよくできましたあはー」

にっこり笑顔のままノンブレスで告げられた言葉に心中悲鳴をあげる。佐助の目が笑っていない笑顔ほど怖いものはない。
びくびくと佐助の顔色を窺うように体を震わすわたしを見下ろし、彼ははあ、とため息を吐いた。ぎしっという音を立てて、ベッドが佐助の重みを受け止める。腰を下ろした佐助の琥珀色の瞳がわたしをまっすぐに貫く。

「無理してない?」
「大丈夫、だよ!」
「本当は辛いくせに…」

わたしの返答にまた大きくため息を吐く佐助。そんなことないんだけどなあ、としゅんとしていると、わたしの肩にそっと腕が回る。引き寄せられるまま、ぽすんと、佐助の胸に頭を預けた。

「大丈夫だって、思い込んでるだけのくせに」

お馬鹿さん。
背中をあやすようにぽんぽんとたたかれ、触れたところから佐助の優しい温もりが流れ込んでくる。

「でも、どんなに無理するなって言っても無理しちゃうのが名前だしね」

呆れたような、でもどこか優しさを含んだ声音は佐助が怒ってるわけじゃなくて、ただ単にわたしを心配してくれているのだということをありありと伝えてくれる。

「名前が満足するまでやってごらん。そんで、パンクしそうになったら、俺様がガス抜きに来たげるから」

本当に優しく髪の毛をすかれ、頭をなでられ、知らないうちに詰めていた息がふっと抜ける。導かれるまま佐助に体を任せれば、ゆっくりと体をベッドに横たえられ、掛け布団をかけられる。

「って訳で、今日は一緒にのんびりお昼寝しよ」

布団の端を持ち上げ、もぞもぞと佐助がわたしの隣に潜り込んでくる。一人暮らし用のシングルベッドにぎゅうぎゅうに体を寄せ合って、佐助がぎゅっとわたしを抱きしめる。

「さすけ…」
「んー?」

体は思っていた以上に休息を必要としていたらしい。全身を包む温もりに体の力が抜け、急激に眠気が襲ってきた。完全に眠りに落ちる前に伝えなくてはと佐助の服をきゅうっと握れば、佐助はのんびりと柔らかな相槌を打ってくれる。

「ありがと、」

へにゃりと笑ってそう告げれば、佐助の喉がクスッと鳴る。そうしてわたしの前髪を掻き分けるとちゅっと音を立てて額に口唇を落とした。

「どーいたしまして」

くすぐったくなるような甘くて優しい彼の声が耳をかすめたのを最後に、わたしは眠気に誘われるままそっと目蓋を閉じた。









くぅくぅと小さな寝息を立てて腕の中で眠る彼女の寝顔は、ここに訪れたときとは比べものにならないくらい穏やかでふぅと息を吐いた。

「…表情なくなるまで頑張っちゃうなんて、本当、お馬鹿さんなんだから」

名前と俺の共通の友人であるかすがから連絡をもらって駆け付けてみれば案の定頑張り過ぎてパンク寸前の彼女がドアを開けて思わず溜め息。自分のことになるととことん鈍感な彼女に、愛しさ半分心配半分で頭が痛くなる。

「頑張りすぎだっつーの、」

顔にかかった髪の毛を耳にかけてやれば、くすぐったかったのかくふふと笑みをこぼす。そんな彼女のあどけない寝顔に胸がきゅうっと高鳴った。

「ま、そんな頑張り屋さんな名前に惚れたんだけどね」

いつもは言わない本音をぽそりと呟いて、もう一度ぎゅっとあたたかな名前の体を抱きしめる。愛しい彼女のにおいを胸いっぱいに感じながら、俺はそっと目を閉じた。


ぼくなら生きていけるよ



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