耳:誘惑/銀時

例えば俺の可愛い可愛い彼女が彼氏である俺を放置して雑誌に夢中だとする。おっとこれはあくまで例え話だ。あくまでな。
で、彼女は余所見ひとつすることなく膝に載せた雑誌に視線を落としている。俺は向かいのソファで足を投げ出すように寝転んでいちご牛乳をぐびり。あ?例え話にしては具体的すぎる?うっせぇなアレだよ、アレ。その方がリアリティ増すだろ想像しやすいだろ。俺の優しさだよばかやろう。
まぁそんなんはこの際どうでもいい。問題はこの放置プレイにどう対処するかだ。生憎俺はMじゃねーから放置プレイじゃ興奮しねえんだなこれが。どっちかっつーと銀さんSだから。サド王子なんて目じゃねえから、実際。ってそうじゃなくて、銀さん寂しいんだよ大好きな彼女から放置プレイ食らってよぉ。その膝に我がもの顔で載っている雑誌が憎い。そこはお前の居場所じゃねえ、銀さんが枕にして頬ずりする場所だ。

「名前ちゃーん」
「んー」

彼女が座っているソファに移動し、腰を下ろす。肩に腕を回して名前を読んでも、彼女は気のない返事を返すだけ。んだよ本気で放置プレイかよ銀さん放置プレイじゃなくてにゃんにゃんプレイしたいんですけどー。つーか、何?『男の子を虜にするモテ女の秘訣!!!』とかお前何読んでんの?名前は俺だけにモテればいいし、俺だけが名前の虜になればいい。そこんとこ、分からせなくちゃな。

「名前」

彼女の耳元に口唇を寄せて、いつもより低い声で息を吹き込むように名前を囁く。彼女の肩がびくりと跳ねたのが腕に伝わって、口角が上がったのがわかった。

「名前」

もう一度名前を囁いて、優しく肩を押してソファへと押し倒す。耳殻を舌先でなぞれば、名前の華奢な身体が震える。それに気をよくして耳に舌を侵入させる。

「銀ちゃ、」

甘ったるい声で名を呼ばれ、じんわりと心があたたかいもので満たされる。でも今更遅ぇから、やめてやんね。つか、名前だってやめて欲しくないんだろ?本当は。
ばさりと、名前の膝からカラフルな雑誌が落ちる。ざまーみろ。


丁寧に成りすましたベビーピンク



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