ぐつぐつとお鍋が音を立てる。味噌のいい香りが部屋を包んで、ぐうぐうとお腹が空腹を訴える。我ながらうまくできたと内心自分を褒めつつ、お皿によそう。

「たでーまァ」

自分の部屋でもないのに勝手にわたしの部屋の玄関を開けて侵入してきた元親は、ソファの脇にスポーツバックを置くと、すん、と鼻を鳴らした。

「…味噌煮か」
「ご名答、食べたきゃお皿出してー」
「おう」

勝手知ったるなんとやらで、元親は食器棚からお碗を取り出し炊飯器からご飯をよそう。箸やらなんやらを取り出して机に並べる様はどうみたって我が家の住人にしか見えない程馴染んでいる。

「バスケ総合優勝おめでとう」

夕飯のおかずを並べ終え、箸を持ったまま手を合わせている元親にそう告げる。一瞬きょとんとした表情を浮かべた元親だったけど、すぐにくしゃりと心底嬉しそうに破顔し、ありがとなと笑った。

「だから鯖の味噌煮か」
「うん、元親がわたしの作る料理で一番好きなのってこれでしょ?」
「その通りなんだけどよ、よくわかったな」
「だってほっぺ緩んでるんだもん」

そう言えば元親はマジでかとか言いながらキリリと表情を引き締める。はいはいかっこいいと適当に流してわたしも味噌煮に箸を伸ばす。うん、おいしい。

「あ、元親元親」
「んー?」
「なにがいい?頑張ったで賞」

箸で鯖を切り分けながら口にした言葉に、元親はぽかんと箸を口にくわえたままわたしを見遣る。

「この味噌煮がそうじゃねえのか」
「え、元親がこれだけでいいならそれで構わないけど…」

まさかこんな料理だけでご褒美になるとは思ってなかったわたしは、思わずそう応えた。そんなわたしに元親は箸を置き、腕を組んで考え込む。

「アー…じゃあ今度の日曜空けとけ」
「どこか行くの?」
「まあそんなとこだ」

詳しく言わない辺り、秘密ということなのだろう。
追及を止めりょーかいとだけ答え、箸を進めた。


勝利のご褒美


∴110711