じゃあじゃあと蛇口から水が溢れる音がする。体育館の方からはまだかすかに応援の声が聞こえて来る。学内決勝戦の真っ最中だ。
体育館から少し離れた運動部用の水道で、じゃぶじゃぶと顔を洗う橙色の後ろ姿を見つけ、悪戯心から足音を殺して近づく。顔を上げ、蛇口をひねる佐助にずいっとタオルを差し出した。

「お疲れさま」

佐助は一瞬驚いたように目を見開いたけど、ありがとーとへにゃりと笑ってタオルを受け取った。

「……負けちゃった」

ごしごしと顔を拭いて、へにょんと眉尻を下げる佐助。情けない笑みを浮かべるその目尻が、ほんのり赤い。

「うん、かっこよかった」

頷き、目を見張る佐助を見つめる。ぴちょんと、蛇口から雫が滴った。

「…負けちゃったのに?」
「うん、すごくかっこよかった」

水道にもたれ、こちらをじっと見つめる佐助の琥珀色の瞳を見つめ返す。しばらくわたしの瞳を読めない表情で見つめていた佐助は、えへへっと頬をほんのり赤く染め、はにかんだ。

「来年は絶対優勝するからね」

前を見据え、拳を握るその横顔を見つめる。

「さすけ」

不意に口をついて出たのは彼の名だった。「名前ちゃ、今…」驚きで目を見開く佐助ににこりと微笑みかける。

「頑張ったで賞、何がいいか考えといて」

それだけ告げて、くるりと踵を返す。振り返る直前、一瞬だけ見えた佐助の顔は耳まで真っ赤だった。


頑張ったで賞


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