「名前は今年も応援だろ?」
「うん、元親はなんだっけ」

夜、当然のようにわたしの部屋のドアを開けて腹減った、と告げる元親に深いため息を吐いて台所に立ったのが30分前。時刻はもうすぐ11時になろうとしている。ガソスタでバイトをしている元親は作業着姿のまま帰って来る。非常にガソリン臭い。

「おま…去年応援に来ただろーが」
「え、そうだっけ」

正直暑かったことと政宗が痛かったことしか覚えてないんだよね。あ、あと片倉先生がかっこよかったこと。

「バスケだバスケ」
「ああそういえばそうだったような気がしないこともなくもない」
「どっちだよ。去年の優勝俺らだったのによ」
「え、すごい」
「ちなみに俺ぁバスケのキャプテンだったぜ」
「へぇ、元親すごいね」
「まあ背があるからな」
「うん、ダンクとか簡単にできそう」
「おう、お前のためにキめてやろうか」
「う、ちょっと見てみたい、かも…」

マグカップに口をつけたままそう呟けば、はははっと笑いながら元親が大きな手で頭を撫でてくれる。じゃあ応援行かなきゃね、何気なく発した言葉に、ぴたりと元親が動きを止めた。

「どうかした?」

俯く元親の顔には影が差していて、表情が窺えない。いよいよどうしたのかと顔を覗き込もうとしたわたしの瞳を、榛色の瞳が貫く。

「…お前、佐助と俺、どっちの応援すんだ?」

紡がれた音の葉に、今度はわたしが固まる番だった。瞬くことも出来ずに、ただ元親の言葉を頭の中で反芻するわたしの頭を、元親はもう一度くしゃりと掻き混ぜる。

「…悪ィ、変なこと聞いちまったな」

そうして悲しげな笑みを浮かべ、元親はすっかり冷めてしまった焼きそばをかきこむ。

答えは、出ないままだった。


揺れる天秤


∴110524