ひとには誰だって苦手なものがあると思う。なめくじのぬめり具合、脛毛が異常に濃い人、魚の茶色い苦いところ。誰がなんと言おうと苦手であることは変わらないもの。勿論例に漏れることなくわたしにだって苦手なものがある。端的に言うなれば、有名なひと。もっとわかりやすく具体的に言うならば、自分が過ごしている狭い環境の中で目立っているひとである。
昔から卑屈な思考ではあったが、成長した今も根本は変わらないらしく、表に出さないだけで未だに眩しいひとへの根強い苦手意識がある。それはわたしが所謂日陰ガールで、そういった眩しいひとを前にすると自分の劣等感が浮き彫りになって惨めな気持ちに苛まれることに起因している。どこまでも保守的な思考の持ち主であるわたしは自分を守るためにはどこまでも貪欲で自己中心的だ。
だがしかし、そんなわたしの感情とは裏腹に、これは運命なのかオーラなのかはたまた他のなにかがそうさせているのか知らないが、わたしはそういった所謂目立つひとに懐かれる傾向があるらしい。

初めてそれが顕になったのは中2の時。学校一の不良に放課後誰もいない教室で突然人生相談を持ちかけられたことに始まる。先生ですら手を焼いていたその不良とわたしが会話をした記憶は片手があれば十分に数えられる程度で、未だに何故わたしにそんな相談を持ちかけて来たのかは謎である。しかし話し掛けられた以上言葉を返さなくてならない。変なところで微妙な責任感を発揮したわたしは彼の相談に自分なりに誠実に意見を述べた。教室の外が真っ暗になるころには彼は穏やかな笑みを浮かべていて、ありがとうとわたしに微笑んだ。いやいや全然このくらいと首を横に振るわたしを彼は暗いからと家まで送ってくれた。正直、全く予想していなかった展開だった。結局終始彼は機嫌がよく、何かあったら力になると約束してくれた。まあ後日力になってもらう羽目になったんだけどそれは割愛する。彼は今はもう同じ学校ではないけど、たまに近況報告のようなメールをくれる。

次にその傾向が顕れたのは中3のとき。今度は学校一の美少女が女の子たち数人に囲まれているのを目撃してしまったとき。微妙な正義感と微妙な責任感しか持ち合わせていないわたしにはそれに首を突っ込む勇気はなかった。なかったから、廊下の角から手だけ出してわざと最大音量の設定のままシャッターを押して写メった。それはもう廊下中に響き渡りましたね。ちろりーんという間抜けな音が。ばたばたと複数の足音が聞こえて、わたしは慌てず騒がず、すぐ傍のゴミ箱の裏に隠れた。どこ行った誰がやったと口々に走り去っていく女子たちの足音を聞き流しいやはや怖いわあとスカートの裾を直して立ち上がる。一応さっきの子はどうしたかなーと思って廊下を覗けば、そこには予想外にもこちらを見つめながら立ち尽くしている学校一の美少女兼クラスメイト。まあその後うんだかんだあって彼女は今やわたしの親友である。わたしが引っ越した今でも変わらずよく家に遊びに来ては泊まっていきます。ちなみに彼女は今や大人気の現役高校生の読モだったり。

まあ他にもいろいろ、例えば人気者の先生に気に入られたりヤのつく自由業なお頭さんと顔見知りになったり学校一のモテ男くんの恋愛相談役になったりとりあえずわたしの意に反して気付けば周りは濃ゆい人ばかり。まあそんなこんなでね、ひとを苦手意識だけで最初から拒否したらいけないんだっていうことを学習したんです。つか拒否したところで眩しいひとに懐かれるわたしの運命は変わらないらしいってね。




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