前髪をあげてシュシュでゆるく止め、部屋着に着替えて向かうはテレビ。わたしの至福の時間。ゲームをしているときは絶対にだれも邪魔することなかれ。わたしのストレス発散という名の神聖な時間を邪魔するヤツは万死に値する!とかなんとか頭の中で呟いていればピンポンピンポンピンポンと凄まじい勢いで部屋のインターホンが鳴った。
畜生だれだこの野郎とか女の子としてどうよな悪態を吐きつつ、スタートボタンを押してゲームを一時中断にしておく。
重い腰を上げ、玄関へとスリッパをぱたぱた鳴らして向かえば、なんか嫌な予感。

「はあーい」

鍵を開け、がちゃりとドアを開けた瞬間、ものすごい勢いでなにかが突っ込んで来て心の準備も構えもしてなかったわたしの体はあっさりと勢いに負けて後ろへ倒れていく。あー、後頭部と背中思いっきしぶつけるじゃんコノヤロー、とか傾いていく身体をそのままにぼーっとしていれば、背中と腰と頭に回った腕がクッションとなってくれて、わたしの体はそんなに衝撃を受けなかった。
が。

「Honeeeeeeey!!Please say that it is a joke!!」
「おい名前!お前、猿飛と付き合うって嘘だよな!?」

学校をサボったらしい眼帯幼馴染コンビがわたしの上に馬乗りになりながら声をあげる。ちょっ、お前等うるさいマジ近所迷惑。

「とりあえず落ち着け」
「なあhoney嘘だと言ってくれよ!」
「そうだ名前、嘘でもいいから冗談だと言ってくれ!」
「だから落ち着けええええええ」

いい加減にイライラゲージがピークに達し、思わず間近に迫ったふたりの顔面に思いっきり拳をめり込ませた。わたしの両脇にそれぞれ身体を倒し顔面をおさえてのたうち回る眼帯'sをオールスルーして部屋へと戻る。
あんな狭い場所でデカイ図体ふたりで突っ込んで来やがってわたしを殺す気かっつの。
とりあえずキッチンに向かい薬缶に水を入れて火にかける。どうせあいつ等勝手にあがり込んでくるんだから、少しは遠慮ってモンを覚えろってんだ。

「Honey!」
「名前!」

案の定鼻を抑えつつばたばたとリビングに上がり込んで来たふたりに黙ってソファを指差して大人しくさせる。そんなに小さくないソファだけど、男がふたり座るとさすがに窮屈そうだ。というよりむさ苦しい。男だらけの光景は学校だけで十分だってのに。

「まずその噂、」

しゅんしゅんと音をたて始めた薬缶を横目に、ふたり用のマグカップを棚から取り出す。今更だけどなんでこいつら専用のが我が家にあるんだ。青と紫のマグカップをしげしげと眺めながらちらりとふたりに視線を送る。
肩に力が入り、思いっきり前傾姿勢なふたりに思わずはあ、と溜息を吐いた。

「本当だから」
「Nooooooooooo!!」

激しく上体を反らせながら頭を抱えて叫ぶ政宗に、さっきまでお尻に敷いていたクッションを床から拾い上げ思いっきり投げつける。とてもうるさい。
そしてその隣りで背中を丸め頭を抱えて「嘘だ嘘だ…俺ぁ信じねえ、信じねえぞ」とかぶつぶつ呟いてる元親には…うん、なにもしないでとりあえず距離をとっておいた。こわい、そして気持ち悪い。

「Honey!今すぐ断って来い!俺がhoneyを幸せにする!!」
「オメーはかわいい彼女さんがいるだろーがッ!!」

ふざけたことぬかすな!と投げつけたクッションを拾い、そのむかつくほど整った顔にぐいぐいと押しつけてやる。窒息寸前で解放してやれば、ちょっとは落ち着いたのか、元親同様頭を抱えて背中を丸めた。何これ、気持ち悪い。丁度いいタイミングで薬缶が沸騰を告げるピーッという音を立てたので、キッチンへと身体を引っ込める。
茶葉を入れて、紅茶を淹れる。最近お気に入りのキャンディーという種類だ。渋みが少なくて、コクがあるので、おやつがわりに飲むのが好き。
それを3人分淹れて、お盆に乗せてリビングに戻る。
未だ頭を抱えたままのふたりの前に紅茶を置いて、テレビの前に腰を下ろした。まだクリアしてないんだな。

ぴこぴことコントローラーを駆使していれば、しばらくして唸り声のような元親の声が部屋に響く。

「…理由は、なんだ」
「んー、気分…かな」
「なんでだよ!お前今まで誰から告られてもずっとのらりくらり躱してたじゃねえか!」
「だから気分だって、猿飛くんイケメソだしね」
「俺たちだって…!」
「政宗と元親はどっちかっていうとワルメンじゃん」

ワルメンもいいけどイケメソもいいよ。まあどっちかっていうとわたしはワルメン派だけど正直こいつらで見飽きた。美人は3日で飽きるってね。まあかすがは飽きないけど。
そのまま黙ってしまったふたりを放置してぴこぴことゲームを進める。
あ、ボス倒せた。さっさと経験値やらアイテムやらを確認してセーブをしている最中に聞こえてきた、

「…お前、泣くなよ」

っていう元親の低い声に、あいよーと応えておいた。
みんなどんだけわたしが泣き虫だと思ってんだろ、と思ったけど、心配してもらえるのは嬉しいから、お礼に今日の夕ご飯をごちそうしてあげることに決めた。

ふたりの幼馴染み


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