もそもそとお昼ご飯である購買のコロッケパンをいつものところでいつもと同じような体勢で咀嚼していたらやっぱりいつも通り親友が顔を出した。

「お前どういうつもりだ!」

お弁当片手にやって来たかすがは開口一番にそう叫ぶと、腰に手を当てお説教モードに入っている。めんどくさいなあ。

「…らにふぁ?」
「とぼけるな!」

パンを咥えたまま首を傾げてみせれば、ごまかそうとしているのはバレバレだったらしい。無駄にわたしのことを理解している親友だ。

「猿飛佐助と付き合うことになったんだろう!」
「あー…情報はっや」

彼女が在籍する別棟の商業科まで噂は広まっているらしい。これだから高校ってやつは。色恋沙汰の情報は広まるのが早い。
もそもそと口の中でパンを転がせば、肩をいからせたかすががわたしの向かいにどさりと腰を下ろす。ちょっ、胡坐なんてかいたらパンツ見えると焦ったが彼女は常にスパッツ着用なのを忘れていた。

「なんなんだ!私への嫌がらせか!?」
「へ、なにが?」
「あれだけ猿飛佐助には近づくなと言っただろうが!」

ああ、たしかに入学してかすがと出会ってかなり初期のころにそんなこと言われた気がしないでもなくもない。てか、昨日の晩御飯もあやふやなのに、1年以上も前のことなんて覚えてる訳がない。今思い出したけど。

「あー、うん、言ってたね。随分前に」
「覚えていたなら何故ッ!」
「ごめんごめん、今思い出した」

ぷんぷんと眉を寄せたままお弁当の包みを解く彼女の金糸のような髪がさらりと揺れる。相変わらずきれーだな。思わずぼうと見つめてしまう。

「で?」
「…へ?」
「何故そんな失態を犯したんだ」

それはつまり何故猿飛佐助と付き合うことになったか、ということだよね。相変わらず猿飛佐助が絡むとかすがの毒舌に磨きがかかる。それにしても失態って、どんだけアイツが嫌いなんだ。

「あー…よくわからん」
「…はあ?」
「いや、うるさかったのとどうでもよかったのとめんどくさかったのと…」

うん、まあ、そんな感じ。と口を開けば、かすがが思いっきり大きなため息を吐いた。
全身から力が抜けたらしく、気張っていた肩が下がり、姿勢のいい彼女が珍しく猫背になる。

「お前は…いい加減そのめんどくさがりを直したらどうだ」
「いやあ、なかなか直るもんじゃないよ、これ」
「人生棒に振るつもりか」
「そんなつもりはないけどさー」

そうして紙パックの牛乳をすすれば、かすががぽつりと口を開く。

「…以前に一度だけ、猿飛にお前のことを聞かれたことがある」
「へえ、そう」
「アイツは、喰えないやつだ」
「まあ、そうっぽいよね」
「…私は、名前が泣く姿を見たくない」
「あっは、かすがやっさしー」
「茶化すな!わ、私は真面目にだな!」
「ごめんごめん、わかってるって」

顔を真っ赤にして膝を立てた彼女に、にやりとストローを噛む。相変わらずかわいい子だ。
ずぞぞぞ、と音を立てて紙パックが空になる。満たされたお腹が、きゅるると鳴った。

「わたしは、そんな弱っちくないさ」

そうにぱりと告げてみれば、かすがは一瞬きょとんとした瞳でこちらを見ていたけれど、やがて呆れたように、そうだな、と苦笑した。


昼休みガールズトーク


∴110319