桜舞い散る4月。東京から神奈川に引っ越してきたわたしは昴にぃと一緒に桜並木を歩いていた。
わたしたちが通うことになったのは私立立海大附属というマンモス校。わたしは附属中学校に、にぃには附属の工業高校に通えることになった。エスカレーター式だった山吹高の受験を蹴って、外部の工業に通っていたにぃにだから、また工業に通えることになってよかった。しかも一緒の学校だし!

「緊張してるか?」
「んー…特には。にぃには?」
「俺も特にしていないな」

転勤族だった我が家に生まれたせいか、子どもたちは転校には慣れっこなようだ。事実、前世では転校なんてしたことなかったわたしでも特に緊張することもなくたくさんのひとの前で自己紹介できるようになった。

「彗はだいじょうぶかなあ…」
「大丈夫だ、彗のあの性格ならすぐに打ち解けられる」

立海には小学校が附属していなかったため、小学校6年生になったかわいい弟彗は、神奈川第2小学校に通うことになり、わたしたちより幾分早く家を出た。たしかに、彗の無邪気さとのほほんとした癒し系オーラを嫌うひとは少ないだろう。にぃにの言葉でほっと肩の荷が降りる。

「それより俺はお前が心配だよ」
「え?なにゆえ?」
「お前、友だちらしい友だち、作んなかったろ」

にぃには心配そうに眉間に皺を寄せてわたしを見下ろす。そうなのだ。結局山吹中では友だちという友だちはできなかった。サボり仲間やら一方的に絡んでくる子はいたものの、休日に一緒に遊んだり、気が休まる相手は見つからなかったのだ。それもそれでいいし、どうにも周りの子たちが幼すぎるように思えて関わろうとしなかったわたしの問題もあるけれど。

「たしかにお前はしっかりしてるし、ひとりでもやっていけるのかもしれないが、友だちがいたらもっといろんなことが楽しくなるぞ」

昴にぃはそう言って優しくわたしの頭をなでる。たしかに、わたしだって友だちの大切さを知っている。友だちのおかげでたくさん楽しい想いもしたし、いい思い出だって出来た。けどそれ以上にめんどくさかったり疲れたり、マイナス面ばかり考えてしまってどうにも積極的にかかわろうとは思えなかったのだ。でもたしかにこれからは転校もすることないだろうし、きっとわたしも附属の高校に通うことになるだろうし、友だちが出来たら、そりゃあ楽しくなるのだろう。

「うん、頑張ってみるよ」
「あぁ、応援してる。きつくなったらいつでも言えよ」
「うん、ありがとにぃに」

にぃに、本当にイケメン。顔もだけど、心がイケメン。どうして前世でこんな男性に恵まれなかったんだろうと少々不毛なことを考えていたら前方に立海の大きな正門が見えた。新しい地に新しい学校。中学3年生、新生活のスタートだ。



1216(それにしても人多…)



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