皆様ご無沙汰しております。なんの因果か遠い遠いこの戦国、大阪の地に遥々現代よりトリップして参りました名前にございます。私がかの有名な戦国バサラの世界に飛ばされたとわかったのが今から三年前の話。愛しの政宗公の下ではなく(ぎりぃ...)大阪に降り立ちました私は、そこで茶屋を営んでおりました今の女将さんに拾われこうして看板娘として日夜忙しく働いているのでございます。さて先日愛しの政宗公がご来店された月より早半年。店先で気絶をした(ここ笑うところ)石田さんはとんと顔を見せなくなり私にほんの少しの平穏が戻ってきたと思った矢先でございました。

「女将殿!この団子はまことに美味しゅうござりまする!!」
「こら旦那ってば!そんなに詰め込んだら喉詰まるでしょうが!」

...お分かりいただけたでしょうか。私のささやかな平穏は紹介するまでもなくこの真田主従によりあっけなく崩壊させられたのでございます。

ことのはじまりはひと月ほど前、虎の若子と名高い真田幸村様がこの大阪の地に居を構えます茶屋に訪れたことがきっかけにございました。暖簾をくぐり次第大声で、女将殿!団子を十本頼むでござる!と叫んだ真田幸村に対し、突然のバサラキャラに目を丸くする私。そしてそんな私を視界に入れた途端に固まってしまった真田さん。そして遅れてやってきた猿飛佐助が真田さんの様子に肩を竦めるという混沌具合。(これが所謂王道展開...違うか)。なんでも以前猿飛さんが任務でこちらを訪れた時に、変装してこの茶屋の団子を土産に持ち帰ったところ、真田さんがいたく気に入り、再び食べたいとわざわざ上田から大阪まで足を運んでくださったとの事でした。しかし一城の主であり、武田の最高幹部でもある真田さん。暗殺を恐れる猿飛さんが、女将さんに団子の仕込みを監視させてくれないかと頼んだことが全ての始まりでした。女手一つこの西の地で茶屋を切り盛りしてきた女将さん。自分の作る団子には絶対の誇りがございます。いくらお客様のご要望とはいえ、自分の作るものを殺しの道具にされないかと疑われるのは非常に不愉快だったらしく、ふたりは一触即発状態。お互い引き下がることなく、今にも火花が飛び散ろうとしている状況に耐えられず、首をつっこんだ私が悪うございました。

「まぁまぁ女将さん。気持ちはよくわかりますが、ここはこの方のおっしゃる通りにしましょうよう。この方もきっとこれまでたくさん苦労なさっているんですよ。それに、そんな面倒なことをしてまで女将さんの団子を食べたいと思ってくれているお客様なんですよ?凄く嬉しいことじゃぁないですか。女将さんは自慢の団子を作れる。この方はそれを安心して食べさせることができる。あの方も、わざわざここまでいらっしゃった目的を果たせる。それが一番いいじゃありませんか。ね?」

そう語った私に女将さんも納得してくれ、さぁこれで一件落着と振り返ったときでした。猿飛さんが涙で瞳を潤ませながら私の肩に手を置き、「っ俺様...こんなに気遣われたの初めて...感動...ッ!!」と、咽び泣きながら口に両手を当てて震えている。(乙女か)。しかも「あんたがいるこの茶屋なら信用できる!!」と、何故か酷く気に入られ、女将さんは気兼ねなく団子を作り、そしてそれを食べる真田さんは大満足と言う信じられないくらい平和な解決に至ったのでした。(アンビリーバボー)。
(本当に)何故かわからないけれど猿飛さんは私のことを信頼してくれたらしく、自分たちの名前と身分まで教えてくれたのでした。いや聞かなくとも元々知ってたんですけどね。そんなこんなで政宗公に引き続き真田主従とも接触を果たした私は相も変わらずこの茶屋で看板娘として働いております。
真田さんと猿飛さんはしばらくこの西の地にとどまっているらしく三日に一度は茶屋にやってきて毎回大量の団子を召し上がって行くので、今はもう立派な常連の仲間入り。真田さんもすっかり私に慣れたようでお客さんがあまりいない時は三人でお茶を片手に談笑するほどの仲になりましたとさ。しかし私は忘れていたのです。ここは大阪。(見たことないけど)豊臣秀吉が治める地。そしてここ半年ほど姿を見せていなかった、あの異様なまでの純情ぶりを見せる銀髪リーゼントの秀吉厨のことを。

その日も真田さんと猿飛さんが茶屋に見え、休憩がてら店先でお茶をしているときのことでした。突然ピリリと肌に刺さるような感覚を覚え、顔を上げるとすぐそこに石田さんが立っていたのです。あらあらすみませんお久しぶりですね、(本当はもう会いたくなかっ)(…おっと誰か来たようです)と声をかけても反応がなく、その表情はまさに顔面蒼白。絶望を体現したかのようなものでした。どうかされましたか?ともう一度声をかけても変わらず反応はなく、普段なら鬱陶しいくらい注がれる視線も今は全く動かないのです。(待ちにまった心変わりか!!?)

「あーらら、なになに?名前ちゃんのいい人ー?」

顔を見なくてもわかる、確実にニヤついた顔をしている猿飛さんが面白そうに尋ねてくる。は、破廉恥でござる!と真っ赤になる真田さん。私がいやだわあ、そんなんじゃぁございませんよう、と振り返るよりも早く、一陣の風が私の横を通り過ぎました。(ファッ?!)。気づいたときには石田さんが猿飛さんの首筋に刀を押し当てていました。(あばばばばば)。まったく身動きが取れない私と、咄嗟に苦無で刀を抑えた猿飛さん。真田さんもすばやく臨戦態勢に入っています。まさか真田さんたちのことがバレてしまうと思わなかった私は、(慣れないシリアスパートに)息を呑んでその様子を見守るばかりでした。射殺さんばかりの勢いで猿飛さんを睨みつける石田さん。その圧倒的な眼力に、さすがの猿飛さんの頬にも、タラリと冷や汗が流れます。突然の出来事に辺りは騒然としていました。

「...な」

その均衡破ったのは、地を這うような低い声。誰かの喉がゴクリと鳴り、誰もが石田さんの言葉を待っていました。そして、恐ろしいほど低い声がビリビリと空気を震わせました。

「貴様ァッ!!何を気安く名前ちゃんなどと呼んでいる!!!汚らわしい...!貴様のような俗は私自ら斬滅する!!!!!!」

うん、安定の石田さんだった!!少しでもシリアスな展開を覚悟した私がバカだった!!石田さんは半年経っても石田さんでした。ぽかーんとする周りなど眼中になく、今にもガルルルッと唸り出しそうな石田さん。その後頭部をお盆で軽く叩いて石田さんの体をくるりと反転させる。何がなんだかわからず声も発せず、目を白黒させる石田さん。思わずそんな石田さんの額をピンッと人差し指で弾き、両手を腰に当て、

「めっ!」

と怒ってしまった。やってからしまった...と後悔した。しかし時すでに遅し。さらに唖然とする周りの人々。(約一名今にも吹き出しそうな顔をしているけど)(おい、テメェだ猿飛)。ぷるぷると震え出した石田さんの体。いよいよ本気で怒ったのか、顔は真っ赤で体も小刻みに震えている。あ、やっべこれ斬滅されたな。詰んだわ。と頭が生きることを諦めた。先逝く不孝をお許しください女将さん。ああ政宗公、許されるならばもう一度、あなたの切れ長な瞳に射抜かれたかった...。なんて走馬灯と後悔がよぎる中、石田さんが口を開いた。


惚れてまうやろー!!

(...まだ惚れてなかったんかいッ!!)(即座に盛大なツッコミが入りました)(さすが大阪)



140121
to なお嬢
thanx50000hit!!