最初のうちはドキドキしていたサボタージュも、慣れてしまえばどうってことない。旧校舎の空き教室で音楽を聞きながらぼんやりとしていれば、がらりと扉が開いて見慣れた銀髪が入って来た。

「およ、亜久津くんじゃありませんか」

やふー、と片手を上げて挨拶するわたしを一瞥して彼は窓際に歩み寄り、窓枠に寄りかかる。最初のうちはサボリ場所がかぶる度に舌打ちされてたけど、最近は黙って傍にいることを許してくれている。

「今日は何聞いてんだ」
「んー今日はエレクトロニカな気分」

その日によって聞く音楽の種類が変わるわたし。そういえば初めて亜久津くんと会ったときはなんかいろいろムシャクシャしていて結構なハードロック聞いてて驚かれたっけ。懐かしいもんやなあ。

「吸わへんの?」

彼の胸ポケットに入っているであろう未成年はダメよなアレ。吸ってる姿、最近は見かけないなーと思って問いかければ、チッと鋭い舌打ちを返された。

「…気分じゃねえ」
「そう」

恐らく周りの大半のひとが抱いているであろう亜久津くんに対する偏見も恐怖もわたしにはない。これは前世から変わらないモットーだ。そのひとがどんな人間なのか、自分の目で見ない限り、わたしはそのひとに対する評価はしない。その結果、彼は脅威に値する人間ではないと決定を下し普通に接している。ただこれは周りよりも二回り近く多い経験値があるから故なのか、彼が将来後悔しそうなことに手を出していたら、口を出す。後悔の残る人生だけは送って欲しくないと思うから、必要だと思ったら口出しする。余計なお世話って話なんやけどね。
ポケットに入れた携帯がぶるぶると震える。開けば中学に上がって携帯を持ち始めたぴかりんからのメールだった。

「心配症な子がうるさいから次は行くね」

『またサボっとるん?痛い目見るでー』と書かれたメールに、次は出るよ、とだけ返す。ぶっちゃけ中学なんていくら休んでもサボっても平気なんだけどね。前世の話だけどひとつ上のある先輩は中学に一度も登校しないで、高校に合格した。義務教育なんてそんなもんだ。だけど、まあ、一応ね。

「おい」
「ん?」
「…携番教えろ」

予想だにしなかった言葉にぱちくりと瞬きをする。え、携番って携帯番号のことでいいんでっか。

「あれ、亜久津くんって携帯持ってたっけ?」
「…使い方知らねえんだよ」

ポケットの中から出てきた携帯は、何度も落としたような傷がたくさんついてる。つか、使い方分かんないとかカワイイな。きっとお母さんとかが心配で持たせたんだろう。

「じゃあ、ちょっと借りんね」

ぱかりと携帯を開いて、ぽちぽちと11桁の数字の羅列を打ち込む。名前と電話番号、それから一応メアドも登録しておく。亜久津くんの携帯にはたったの6件しか登録されていなかった。

「ほい、登録しといたけん、なんかあったら気軽に連絡ぷりーず」

ぽん、と彼の手の上に携帯を乗せる。亜久津くんは無言で携帯をポケットにしまった。不良に懐かれるのは、前世から変わらない要因だ。



1112(その後亜久津くんから名前で呼べとのメールが届きました)



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