気がついたら船に戻っていた。
消毒液の臭いが鼻について、反応が鈍い身体をゆっくりと起こす。

見慣れない景色は、医務室だからだろうか。出入りすることはあっても、ベッドを使うようなことは一度もなかった。
真っ白な空間は居たたまれなくなってくる。


「目ェ覚めたか」

「イゾウ…」


白いカーテンの隙間から顔を出したイゾウは医務室では役立たずな煙管を揺らしながらベッドに腰掛けた。
ギッ、と軋んで沈むベッドは不安になるぐらい年季がはいっているようだ。


「サッチは?怪我とか‥その大丈夫だった?」

「あァ…。誰かさんに殴られた傷が重症で、他はかすり傷みたいなもんだ」


気を失う前のことはあまり覚えてはいないが、グーで殴ったような気がしないでもない。
でもあれはサッチが悪い。


「命を粗末にするようなことするから」


言い訳するように小さく呟いて目を伏せると、イゾウがそれを鼻で笑った。
イゾウはあの場にいなかったから笑えるのかもしれないが、本当に心臓が止まる気がした。


兄の時と同じような光景をもう一度目にすることになるなんて、今思い出しただけでも吐き気がする。


守って貰わなくてもいいように力の使い方も覚えて、そこそこ強くなれたと自負しかけていた。それなのにまた、同じことが起こる。何回も何回も。


カチカチと無様に合わさる奥歯を噛み締めて、真っ白なシーツを強く握る。



「お前なら、逃げたのか?」

「……」



伏せていた目を上げて、イゾウの顔を見る。
困ったように笑うイゾウはどこか寂しそうで、慌ててまた目を伏せた。


「サッチが銃口を突き付けられてお前に逃げるように言ったら、逃げるか?」


脳裏に焼き付いた光景が鮮明に蘇ってきて、逃げるようにぎゅっとシーツを握り締めた。


「…わからない」


言い訳のようにこぼれた言葉にイゾウは短く息を吐き出して、それから静かに名前の頭を撫でた。



「守りたいものがあるってことは、弱味なんかじゃねェんだよ」


ぐしゃぐしゃとかき混ぜるように頭を撫でたイゾウは、仕上げとばかりに軽くぽんぽんと頭を叩く。その弾みで涙がシーツの上に落ちていった。



わかりきった答え


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