一面真っ白な世界。
そう言えば幻想的な響きで聞こえはいいが、吹雪のせいで視界が悪すぎる。
観光にも向かないだろうこんな島。


作物も望めない、観光にも向かない、そんな島なのに豪華絢爛な家が建ち並んでいる理由は、マルコの言っていた通りのことが行われているからだろう。
島が丸ごと海賊狩り、なんてそんなに珍しいことじゃない。



「名前はどこだ」


誰に言うでもなく呟くと、白い息が風に流れて消えた。
船にいたときには煩いぐらい羽を鳴らしていた蟲だったが、寒さには弱かったらしく今は吹雪のせいか羽音すら覚束ない。


必死に襟にしがみついているが、いつ死んでもおかしくない状態だ。


たかが蟲一匹。
死んだところでなんの支障もないし、蟲に優しさなんて向けてやるほどいい人じゃない。
それなのに、何故か気になるのは惚れた女の影がチラつくからに他ならない。



「なあ、名前は無事なのか?お前にならわかるのか?」


ジジジッ、とか細い羽音が耳に届くが、それが何を示すのかはわからない。
もどかしい感情を抱えたまま建ち並ぶ家に必死に目を凝らす。

そんな中から一際大きなその家を見つけた。


真っ白な世界に、黒い渦。
正確には蟲が束になって家の周りに渦巻いていた。
マルコの言葉が頭のなかで蘇って、振り払うように強く唇を噛み締める。



「あれが噂の領主様のお家か。いい家に住んでるじゃねぇの」


一人呟いて双剣を確認するように手を沿えると、襟にくっついていた蟲がぽろっと雪の上に落ちる。
ぴくりとも動かなくなったその蟲を一瞥したサッチは短く息を吐き出して、双剣を抜いた。


いざ、終曲へ


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