「名前ちゃん、一緒に帰ろっ」
夕焼けに染まる廊下をひとりぽつりと歩く小さな背中を見つけ、駆けよりながら声をかける。
「……」
何の反応もせず、名前ちゃんはただ足を進める。いつもとは違う反応に首を傾げながらもう一度名前を呼び、手を伸ばす。
ぱしり...
乾いた音が静寂に満ちた廊下に響く。
弾かれた手のひらが目的を失い、宙をさまよう。
「名前ちゃ…」
「もう、やめて」
思わず口からこぼれた声を遮ったのは、名前ちゃんの静かな声。
辺りを包む痛いほどの静寂が夕陽の橙すら呑みこもうとしていた。
「もう、本当に、私と関わるの、やめて」
振り返ることなく、名前ちゃんはぽつりと言葉おもらす。
「な、んで……」
びっくりするくらい掠れた声が口から零れる。頭の中からがんがんと音がする。脈動する心臓の音が妙にリアルだった。
「……」
「なんでだよ!俺様は嫌ってくれるまで諦めないよ!?」
声を荒げ、名前ちゃんの腕を掴むと、強引に引っ張る。振り返った名前ちゃんの顔は涙で濡れていた。潤んだ瞳からはぽろぽろと、涙がこぼれ落ちて、頬を濡らしている。
「……って…」
あまりに予想外の出来事に、脳は思考を止め、ただ呆然と名前ちゃんの瞳から涙がこぼれる様を見ていた。
「…だって…、見てないじゃない…」
ぽつり、涙に震えた声が、しんと静寂に満ちた廊下に落とされた。こぼれ落ちた涙が、ひたすらに綺麗だった。
「佐助の瞳に、今の私は映ってないじゃない!!」
少女Aの告白