「諦めない、のか」
昼休みに、名前がトイレに行っている隙にやって来た猿飛に疑問を投げかけてみる。
「なにが?」
「名前のことだ」
たしかに私は、400年前に記憶もあるし、猿飛と名前がどれだけ愛し合っていたのかも理解しているつもりだ。だけど、今の名前は違うのだ。たしかに名前は、あの名前姫の生まれ変わりだし、見た目や性格もなにひとつ変わっていない。あのころの名前そのものだ。だが、今の名前には、猿飛を愛した心は残っていない。
残っていないのに。
「諦めないよ」
「……」
「絶対に、諦めない」
いつものおちゃらけた雰囲気など一片たりとも見受けられないほど真剣な色を湛えた猿飛の瞳が私を貫く。
「…見上げた執着だな」
「前向きって言って欲しいね」
先ほどの真剣な表情はどこへやら私の言葉にくすくすと笑みをもらす猿飛。
私も苦笑をもらしながら紙パックのコーヒー牛乳で喉を潤す。
「…ひとりのひとをさ、400年間も想い続ける苦しさ、お前ならわかるだろ?」
ぽつりと投げかけられた言葉に、私は、あぁ、とだけ短く応える。
「忘れようとしても忘れられない。諦めようとしても諦められない。そのひとへの想いが自分を雁字搦めに縛り付けて、心の奥底にずっしりと重くのしかかる」
猿飛の言葉は重く、私の胸に沈んでいく。
私にもわかるからだ。
猿飛の想いが痛いほど切なく。
「それでも、それが愛しいんだ。俺は勝手に先に逝っちまったし、名前に無理矢理待っててって無謀な約束とりつけた。それでも、名前は待っててくれたんだ。死んだ俺を、ずっとずっと想っててくれた。だから今度は、俺が待つ番だろ?」
にかりと笑って逝った猿飛に苦笑がもれる。
まさかその話を、名前が聞いているとも知らずに。
少年Bの愛情