佐助を振り切って教室を飛び出し、屋上へと足を運んだ。
扉は閉まってるから、途中のロッカーの上の窓から侵入して、
いつものように梯子を登り、ごろりと横になる。
太陽の熱で温められたコンクリートが肌に心地良い。

「……名前、」

この名前を持つのは二度目。
前世なんて話、本当は信じたくないけど、私は甲斐の虎、武田信玄の娘の生まれ変わり。その証拠に、今も武田信玄は私の父だし、一学年下には昔と変わらず父様に心酔している真田幸村がいる。ちなみに独眼竜伊達政宗と西海の鬼長曾我部元親とかすがは同じクラス。日輪の申し子毛利元就と恋話大好き前田慶次豊臣の軍師竹中半兵衛と伝説の忍風魔小太郎は隣のクラスだ。ちなみに独眼竜の右目の片倉小十郎はわが校の教師でもある。
よくもまあ400年の時を超えてまたこうして全員集まったと思う。



目を閉じれば、今でも昨日のように思い出せる。群雄割拠の戦国時代、私と佐助は姫と忍で、それでも白のみんなから公認された恋仲だった。普通じゃありえないんだろうけど、何せ父上が祝福してくれていたから、文句を言う者はほとんどいなかった。戦は絶えないし、哀しくて辛い想いもたくさんしたけど、幸せだった。幸村の鍛錬の後に3人でお茶を飲んでお団子を食べる穏やかな時間が好きだった。時々ふたりでお散歩をする時間がたまらなく好きだった。特に多くを望んでいたわけじゃない。結ばれたいと思わないわけじゃないけど、それでも、ただ傍にいられれば幸せだった。
それすらも、過ぎた願いだったのかもしれないけど。


「さすけ……!」

立ち込める戦場の香り。戦況は圧倒的に武田が有利で戦場に犇めくは武田の赤ばかり。
だけど私にはそれすら目に入っていなかった。

「へへっ、ごめんね姫さん…しくっちまった…」
「しゃべらないで」

戦装束を引き裂いて、患部の少し上を締め付け止血をする。出血が、酷い。

「あーあ…この戦が終わったら、姫さんと祝言挙げようと思ってたのに……」

その言葉にぴたりと動きが止まってしまう。

「な、に言って…」
「ごめん、ね」

佐助の手が私の頬を優しく撫ぜる。触れた指先は、氷のように冷たかった。

「さすけ…っ」
「愛してる」
「いや!いや!聞きたくない!!」

患部を止血していた両手で耳を塞ぐ。これ以上佐助の最後の言葉を聞いていられなかった。

「……ねえ、名前」

なのに佐助は私の手を優しく重ね合わせて微笑むの。

「待ってて」
「名前ちゃん」


目を開ければ飛び込むのは空の青と佐助の橙。

「さ、すけ……」
「なにひとりで泣いてんの」
「…ごめん」

頬を覆った佐助の手のひらが、優しく涙を拭ってくれる。

「謝るくらいなら付き合ってよ」

仲しく微笑む貴方の瞳に写っているのはかつての私だけ。
今の私なんか、写っていやしない。


少女Aの独白

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