今更ながら我が家は転勤族らしい。小学校卒業と同時にまた東京に引っ越してきた。ぴかりんに会えなくなるのはさびしいけど、手紙も交換しているしきっとそのうち携帯を手にするだろうから、連絡を取り合うのは簡単だ。
中学に進学したわたしは山吹中という私立に通っている。そして気づけばなんか目立ってた。美形な両親のおかげか、期待通り前世とはかけ離れた美少女に育ったことは自覚している。それに元スタイリストのママと、おしゃれ大好きな現在大学生の澪ねぇがわたしにおしゃれとはなんたるかを叩き込んでくれたおかげで、個性的に、かつ自分に似合うおしゃれを見極める眼も養えた。さすがにまだ胸とかは成長していないけれど、前世のわたしからしたらとんでもないくらい理想の体型で毎日が楽しくてしょうがない。制服をどう着こなすか、毎日ママや澪ねぇと全身鏡を前にきゃっきゃっするのは精神年齢30半ばを迎えたわたしにとっても楽しくて仕方ない。前世で個性がないと言われて会社から切られまくったわたしにとってこの個性的にかつ美しく、という人生はとても新鮮で幸せだ。
白を基調としたシンプルな制服にワインレッドのこだわりカーディガン。髪は栗色のゆるふわボブ。生まれつきの猫っ毛で、パーマをかけているわけではないのに、いい感じにくるくる。大きな黒ぶち眼鏡に黒のニーハイ。ぴかりんに影響されて左耳にふたつ開けたピアス。転校生ってことで同じ小学校出身の子もいなくて、若干、いや結構浮いている自覚はある。けれどとうの昔っていうか前世に思春期を終えたわたしにとってはなんら問題はない。ひとりでいたところで大して困らないことを知っているからだ。なので気にせず個性的に生きるわたしに絡んでくる子がひとり。

「おはよー!名前ちゃん!」
「おはよう千石くん」

朝から両耳にイヤホンを突っ込んで登校してきたわたしに躊躇わずに声をかけるひとなんてひとりしかいない。中1から既に女の子大好きだと宣言してる軟派男、千石清純くん。同じクラスで席が前の彼は何故だかすごく絡んでくる。それはもううんざりするくらいに。

「いやー名前ちゃん今日も可愛いね!ほーんと、朝一番に名前ちゃんに会えるなんて俺ってラッキー!」

下駄箱で朝からハイテンションに絡まれ低血圧で朝が弱いわたしは若干目が据わりつつあります。

「名前、」
「お兄ちゃん、」

そんなわたしを救ってくれる救世主。同じく山吹中に通っている昴お兄ちゃん。ちらりと千石くんを一瞥して、わたしを教室に向かうよう促してくれる。小さい頃と打って変わってクールで硬派になったお兄ちゃん。でもお家ではちゃんとわたしや弟を甘やかしてくれるし、とても優しいの。それにイケメンだしね!

「おはようございますおにーさん!今日もイケメンですね!」

普通の男の子なら兄の登場で怯むのかもしれないけれど、残念ながら千石くんはこんなことじゃあ引かない。さすがというかなんというか、ある意味尊敬である。

「…お前に兄と呼ばれる筋合いはない」

ぼそりと声変わりを終えた低い声で呟いたにーにはわたしを庇うように背中を押してくれる。わたしも大概ブラコンだけど、にーにも相当なシスコンなのだ。


1104(ていうか我が家は家族愛の塊なんだよね)



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