穏やかにたゆたうように流れる真っ白な綿あめ雲を机に頬杖をつきながらぼんやりと眺めればぽかぽかとこころが優しくなる。
気持ちいいな温かいなあ昼寝には最高の天気にだなあ。
昼時に舞いこむ陽射しは午前の授業で疲れた生徒を眠りに誘う最高の案内人だ。
心地の良い倦怠感に包まれ欲望に忠実に目蓋を下ろしたときだった。

「名前ちゃーん」

聞き慣れた声と共にずしっとした感触が背中全体に訪れ、自分のこめかみがぴくりと動いたのが分かった。
無遠慮にものしっと背中に抱きついて来た男に、自分の苛立ちを隠すことなく口にする。

「どいてください猿飛くん」
「なあに考えてたの?」
「あなたには関係ない」

そのままの姿勢で自分の出来る限りの冷たい声を出して、未だに私の背中にくっついている男に拒絶の意を示す。
ああ不愉快だ非常に不愉快だこれはセクハラで訴えることができるのだろうかああうざったい非常に遺憾だ。

「えー昔はどんな些細なことでもちゃーんと教えてくれたのになあ」
「…その話はやめて」
「それに"猿飛くん"なんて他人行儀な呼び方じゃなくてもっと柔らかい声音で少し頬を赤らめて"佐助"って……」

がたんっという大きな音が教室中に響き、休み時間の騒がしさが水を打ったように静かになった。

「いい加減にしてよ! いくら前世で愛し合っていたからって今あんたと愛し合わなきゃいけない理由なんてないでしょ!?」

目の前で酷く悲しそうな笑みを浮かべて立っている佐助に向かって吠えるように叫ぶ。肩で息をするように佐助を睨み付け、私は教室から飛び出した。何故かは分からないけど、瞳から溢れる涙がどうしようもなく不愉快だった。


「…大丈夫か」

ざわざわと騒がしさを取り戻した教室。倒れた名前の椅子を元に戻している猿飛に声をかけた。

「なに、心配してくれんのかすが、やっさしー」
「ほざけ」

軽い口調や雰囲気は相変わらずだが、その笑みがなんとなく悲しげに見えた。
何か声をかけようにも、なにも言えない。いつもそうだ。今も、昔も、私は…。

「かすが」

不意に呼ばれた自分の名に弾けるように顔をあげる。

「ありがとな」
「さるとび…」

そう優しく微笑み猿飛は、私の目には今にも泣きそうに見えて、思わず手を伸ばした。その手を払うでも受け入れるでもなく、猿飛はもう一度優しく笑った。

「いいよ、俺様、待ってるから」


少女Aと少年B
(待つのはもう、慣れっこだからね)



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