ほう、と吐いた息が白くなる。お気に入りのマフラーをぐいと引き上げ、鼻を埋めれば大好きなひとの香りに包まれる。この間のお家デートのときにこのマフラーに彼の香水をかけてさせてもらった。自分には似つかわない艶を含んだ大人の男性の香りに、鏡で確認しなくても自分の頬が赤くなっているのが分かった。

不意にぶうんっと響いた低いエンジン音に俯いていた顔を上げれば見慣れたバイクがこちらへ向かって来るのが見えた。

「チカちゃーん!」

ぶんぶんと手を振って自分の存在を知らせれば、緩やかに減速したバイクがブレーキ音を立てて目の前で止まる。すぽりとヘルメットを取ったチカちゃんの綺麗な銀髪がふさりと揺れた。

「待たせたな」
「ううんっ大丈夫!」

申し訳なさそうに私の頭を撫でるチカちゃんを見上げにこりと笑う。きっとチカちゃんにはわからないだろうけど、好きなひとを待つ時間って、とってもどきどきして楽しいんだよ。

「とりあえず飯行くか」
「はーい」

私用のヘルメットをチカちゃんから受け取り、よいしょっと声を出してバイクの後ろに跨る。こうなることを見越して制服のスカートの下にはタイツとスウェットを着用済みだ。

「いいか?」
「おー!」

慣れた手つきでヘルメットを被って、ジャンバーのジッパーを首まであげ、チカちゃんのお腹に腕を回せば準備完了。付き合ってすぐのころはあっぷあっぷして緊張しまくっていた二人乗りも、今ではすっかり慣れたもので。こういう慣れってなんかいいなってひとりチカちゃんの背中にくっついてにやけてしまった。


待ち合わせのときは明るかった空も、今ではすっかり暗くなり、お星さまが輝く時間に。ご飯を食べ終わったからチカちゃん家に行くのかなって思ったら連れて行きたいところがあるって、チカちゃんはバイクをお家とは反対方向に走らせ始めた。

「ねー!どこいくのー?」
「あぁ?」
「どーこーいーくーのー?」

バイクの後ろから大声で聞いたのに運転してるチカちゃんには聞こえなかったみたいで、もう一回今度は喉が痛くなるくらい大きな声で尋ねれば、秘密、と返されてしまった。むう、チカちゃんだけ秘密を作るなんてずるい。バイクの後ろで拗ねながら回した腕にぎゅうっと力を込めれば、チカちゃんがくすっと笑った気がした。
それからしばらくバイクを走らせ、到着したのは街外れの丘の上にあるでっかいクリスマスツリーの下だった。

「うわっうわっ!チカちゃん!きれい!!」
「おー綺麗だなあ」

クリスマスの代名詞カラーの赤と緑をベースに、白に近い青やらお星様みたいな黄色やらかわいらしいピンクのイルミネーションが施された大きなクリスマスツリーのてっぺんには金ピカの星がちかちか光っている。目に映る全てがぼんやりと淡い光に包まれていて、このうえなく幻想的な光景だった。

「思ったよりひともいねえし、こりゃいいな」
「ね!すっごくきれい……」

まだ早い時間だからか、周りには私たちの他にカップルが何組かちらほらいるくらいで、この綺麗な景色を堪能するには最適な環境だった。
目が眩むほど美しくて神聖な光景にうっとりと目を細めてライトアップされたツリーを見上げていれば、突然後ろからぎゅっとチカちゃんの逞しい腕が巻きついて来た。

「ちッチカちゃん…?」
「あー…あったけー…」

ぎゅうぎゅうと抱き締められ、肩口にチカちゃんの額がぐりぐりと押しつけられる。恥ずかしいけどあったかくて、それでもって幸せで。

「チカちゃんだいすき―」
「…お前、あんま可愛いこと言うなよな…」
「えへへー」

想ったことをそのまま口に出せば、チカちゃんはふーって息を吐いてからぼそりとそう告げた。きっと今振り返ったらチカちゃん真っ赤なんだろうなーって思うと自然と頬が緩む。ほくほくとチカちゃんの腕を抱くようにしてまたツリーを見上げていれば、こしょりとチカちゃんの髪が頬をくすぐった。何事かと振り返ろうと首を反らせば、突然回されていた腕で顎を掴まれ、そのままの体勢でチカちゃんの口唇と私の口唇が重なった。
優しく触れるだけで、まるで温もりを分け合うようなキスはすぐに終わりを告げ、チカちゃんは羞恥で真っ赤な私の耳元に口唇を寄せる。

「…キスしたくなんだろ?」
「…も、もうしてるし…っ」

耳元で囁かれたそれが、あんまりにも低くて甘い声だったから、余計に私の頬は熱を持って、恥ずかしくて恥ずかしくてぷいっとそっっぽを向いた。
そしたら自分でも熱く感じるほっぺにちゅっと音を立ててキスされて。
もう堪らず俯く私の頭をチカちゃんはわしわしと撫でて、またぎゅっと抱き締める。

「来年も、また一緒に見に来ような」

そう、優しげな声音で告げられた言葉に、大好きなひとの腕の中で小さくこくりと頷いた。


大学生×高校生
101213

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