「記憶がね」

そう言って名前はそのあまりに細く、白い右腕を、俺に差し出す。

「零れ落ちていくの」

名前の眼はどこか虚ろで、まるで儚い夢を見ているかのようだった。

「砂時計の砂が、零れ落ちていくみたいに」

”消えていくの”
彼女はそう言って自嘲気味に微笑う。

それは、どれだけ辛いことだろうか
それは、どれだけ悲しいことだろうか
それは、どれだけ恐いことだろうか
それは、どれだけ苦しいことだろうか

俺には、想像することすら出来ない苦悩を、彼女は、その細くて小さな背中に背負っているのだろう。

「ねぇ、リーバー」

名前の儚く、小さな声が俺の名を紡ぐ

「もし私が、リーバーのことが判らなくなったら」

名前はそこで一旦言葉を切って、こちらを向く。ドクンッ…嫌なほど、胸が疼いた。彼女が次に発する言葉が、酷く、恐ろしかった。

「リーバーが、私を殺してね」

その微笑みが、あまりに美しくて。あまりに儚げで。あまりに、悲しくて。俺は握り締めた自分の拳に、更に力を込めた。

「愛する人を忘れて生き続けるくらいなら」

また彼女は、微笑みの色を濃くする。


「愛する人の手で、殺される方が幸せだもの」


まるで当然のことを言っているみたいな名前を前に。何もできない自分の無力さを改めて実感し。

「ね、リーバー。お願いよ?」

なんて首を傾げる名前を、力一杯抱き締めた。出来る限り、力を込めて。この細い体が折れてしまうんじゃないかってくらい強く、抱き締める。

「リーバー…苦しい…っ」

そんな彼女の声なんて、耳に入らない
ただ今は、このまま消えてしまいそうな名前を、この腕で、抱き止めていたかった。


Lost you...





( 忘れるな、なんて言わないから )
( だから、頼む )
( どうか )
( どうか )






( 生きて )