ふわり、窓の外を黒洞々たる闇が支配する中、黒を基調とした寝室のベッドにて、女の煙草の香が男の鼻孔を掠めた。

「…たばこ、」
「ん?」
「やめないの?」

最近値上がりしたばかりのそれを人差し指と中指で挟み、艶やかな口唇へと運ぶ女の仕草を目で追いながら、男はぽつりと言葉を零す。

「んー…」

男の問いかけに、女は考えるような仕草を見せる。白く細長い肢体を口に咥え、深く吸い込むめば、黒いシーツに包まれた白く細い肩が呼吸に合わせて揺れる。

「どうにも口寂しいのよね、」

ふうと、紫煙をくゆらせながら女は艶やかに微笑んでみせる。情事後特有の気怠い雰囲気にそぐわないその所作に、男はむうと口唇を尖らせた。

「なら俺様がいつでもちゅーしたげるのに」

拗ねたように枕に頭を預け、未だ煙草を吸い続ける女を見上げ口唇を突き出す男。その可愛らしい仕草に女の口元がふっと弛む。

「そういうわけにもいかないでしょ」

四六時中一緒に居る訳じゃないんだから。そう呟いて女は軽く煙草の肢体をたたき、じりじりと赤い炎に浸蝕された灰を灰皿へと落とす。一瞬だけ赤い輝きを見せたそれはすぐに本来の色へと姿を変え、透明な灰皿の上で存在を主張した。

「…でもまあ、」

女はふと思い付いたように口を開くと、まだ十分な長さがあるそれを灰皿へと押し付けた。

「こんなときくらい、キスで埋め合わせしてもらうのも悪くないわね」

そう言って身を屈め男の口唇へとはむような口づけを落とす。それに男が苗字、と女の名を呼び応えれば、再び部屋の空気は熱を孕み、ほんのりと開いたベランダの窓から紫煙がゆったりと宵闇へ溶けていく。纏わりつくような暑さが恋しい肌寒い夜だった。


は水溶性


110105 title.is
このあと佐助が姿を消して秘書資格とって彼女の秘書になって四六時中キスしてタバコをやめさせるっていう幻の続編がありましたとさ。