悲しくなるくらい気持ちよく晴れたとある3月の日曜日。
桜の花びらはお世辞にも満開とはいえない、五分咲きくらいだけれど、それでも粛々と執り行われた卒業証書授与式を終えた先輩たちの顔は晴れやかだった。
「 センパイ 」
制服の胸ポケットに桜色の華をつけ、卒業証書の入った黒筒を持ったセンパイに声をかける。
「 佐助、」
「 …ご卒業、おめでとうございます 」
できる限りの真顔で、真剣にそう告げれば、センパイはおかしそうにくすりと笑みをこぼした。
「 ……なんで笑うのさ、」
「 いや、だって、佐助が敬語って、なんかおかしくて…っ 」
あはは、と目尻にほんの少しの涙を浮かべて笑うセンパイに、俺も自然と口元が綻ぶのを感じた。
「 センパイ 」
ざあっと、勢いよく吹いた風に、桜の花びらがひらひらと舞い上がる。
「 大好き、でした 」
紡いだ言葉は、空気を震わせてセンパイの元に運ばれる。センパイと俺、ふたりの間のほんの数メートルの距離は、サヨナラの距離。もう、想わないの距離。
「 ………うん、」
センパイはゆっくり、噛み締めるように頷いてくれた。
「 ありがと、佐助 」
そうしてセンパイはまるで花が咲き誇るように破顔した。
ああ、やっと笑ってくれた。
俺に向けられた、俺だけのための、本当はずっと欲しかった、大好きなセンパイの、笑顔。
やっとその瞳に、俺は写れたんだね。
「あーあ! この俺様をフるのなんてセンパイくらいだよ? まったくもー、後悔しても知ーらない」
そうおどけたように笑えば、そうだねって、センパイはもっと笑ってくれるから。
「 …ほら、行きなよ 」
指差す先は特別校舎2階。
数学準備室。
「 …うん 」
なにか決意したように頷き、センパイは俺の横を駆け抜けていく。
髪をなびかせ、スカートを翻して、愛しの右目の旦那のもとへ。
「 …あーぁ、 」
こうして、俺の半年間、の短い恋は終わった。結局、大好きなセンパイの隣りにいるのは、俺じゃないけど、
「 サヨナラ、名前センパイ 」
俺はやっぱり、センパイが好きだよ。
さよならサンセット
(バイバイ、さよなら、大好きでした) 100324 fin