センター試験が無事終わり、大盛り上がりな予餞会も終わって、先輩たちが自由登校となった2月。

右目の旦那に図星をつかれて明らかな敗北を実感したあの日以来、俺はセンパイに会っていない。いや、会いになど、行けなかった。


会えない分、いろいろなことを考えた。たくさん考えた。考えて考えて考えて、それでも変わらなかった唯一絶対の想い。


―…愛しい。


センパイが、どうしようもなく愛しかった。俺がセンパイに執着するのは、お気に入りの野良猫が自分にだけ懐かないことに対する苛立ちだとか、そう言ったことから来る子供騙しな独占欲みたいなものだと、ずっと、思っていた。
だけど、違った。

これが、恋なんだ。

このどうしようもない胸の痛みが、好きで好きでどうしようもないのに手に入らないもどかしさが、大好きで大好きで、今にも張り裂けそうな愛しさが、痛んで疼いて泣き出したくなるのに、それでも嬉しい、優しい、愛しい、この気持ちが、恋だ。そう俺は、どうしようもなく、本当にどうしようもなく、センパイが好きなんだ。





一ヵ月振りに見つけた小さくて細くてあまりに頼りない、けど愛しいその背中は、なにも変わってなくて、なにひとつ、変わってなくて。
走って走って腕を引いて、言葉を発するのも許さないほどこの腕に強く掻き抱いて。


「セン、パイ…セ、ンパイ、センパイセンパイセンパイセンパイセンパイセンパイセンパイセンパ、イ…っ」


張り裂けそうな胸の痛みを埋めるように、ただただ、センパイを抱き締める。ああこのままずっと、ずっと時が、止まればいい。止まれば、いい。

そっと、優しく背中に回された手。
その細くて頼りない手は、とんとんと俺の背中を優しく規則的にたたく。


「さすけー、」


優しい声色。
優しい手のひら。
優しい温もり。
その優しさ全てが、俺の胸をぎゅうぎゅうと締め付ける。センパイの優しさが、ひたすらに痛かった。



「…もう、サヨナラなんだよ」



ぽつり、呟かれた言葉は俺たちふたりしかいない静かな空間にゆっくりと溶けて消えた。俺はただ、センパイの肩口に顔をうずめて、溢れて零れそうになる涙たちを、そっとこらえた。










さよならなんて掻き消して、いやだよ離れたくない。そんなささやかな祈りは涕にそっと溶けていく。ああそうして俺の恋は終わっていくのだろう。


100324