ひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいいたみが己の右目を襲う。
痛い熱い痛い痛い痛い熱い熱い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
目を閉じているのか、開けているのか、見えているのか、視えていないのか、暗闇なのか、陽の下なのか。
なにも、なにもわからない。
痛い、右目が、酷く痛い。
息ができない苦しい苦しい苦しい。
もう、死ぬんだと思った。
きっとこれが死への途上なのだと思った。
意識は深い昏い闇の底へと沈殿し、明かりをとらえない瞳から雫が溢れる。
誰かが己の名を呼んでいる。

"梵天丸様ッ!!"

そうか、そうだ。
己の名は梵天丸。忘れていた。随分と長い間この暗闇に浸りきっていたせいか、記憶がひどく曖昧だ。
寒さも暑さも光も感覚も、ここにはなにもない。
それが酷く悲しかった。

「梵天丸」

また、声が聞こえた。
今度は知らない声だった。

「な、に」

不思議と声が出た。随分と掠れた声。自分の声を聞いたのも久しぶりだった。

「生きたいか」

声が、響く。頭の中に、直接。
鈴の音のような、凛とした涼やかな声。

「生きたいか」

声が、問う。己に、生きたいかと、再度問う。
生きる。
なんのために。
自分のために?
母に必要とされなかった、愛されなかった、自分に一体生きる意味があるのだろうか。
生きてもきっと辛いことがあるだけだ。
母上は己を呼んでくれない触れてくれない微笑んでくれない、愛してくれない。
一体己は生きてなにを成し遂げたいというのか。
母を見返したい?
己を化け物と呼んだ女に自分を刻みたい?
わからない。
なにもわからない。
生きたってきっと変わらない。
己はいつまでたってもきっと忌み子のままだ。
だけど、どうして、
どうして涙が止まらない。
どうして手を伸ばそうとする。
わからない。
鼓動が、心臓が、己の細胞全てが生を欲して闇に抗う。

「生きたいか」

問われた声に、両の手を伸ばす。
生きたい。
生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい

生きて、いたい。

「ッ俺は、生きたい!!!」

喉が潰れるほど絞り出した声に、光が差す。
真白に染まる視界の中、最後に目蓋の裏に舞ったのは蒼く気高い竜の姿だった。



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