意識が浮上し、真っ先に左目に映ったのは見慣れた自室の天井の染みだった。
ずきずきと痛む頭をおさえ、のそりと身体を起こせば障子戸の向こうに見知らぬ影が写っているのが視界に入り、ふるふると頭を振って立ち上がる。
枕元に置かれた短刀は持たなかった。

「気が付いたのかい」

無造作に障子戸を開けば、縁側の濡れぶちに腰かけた見知らぬ背中が見える。
傍らに湯気がのぼる湯呑が置かれている。

「……あぁ、」
「驚かせたのは謝るから、そんな怖い顔をしないでおくれ」

声色から俺が眉間に皺を寄せていることに気が付いたのだろう。
女はくすくすと肩を揺らせて笑う。
その隣りにどかりと腰を下ろせば、女の足元で丸くなっている白い狼が視界に入った。
狼はちらりと黒々とした瞳で俺を一瞥し、また鼻先を自身の身体へとうずめた。

「久方振りだね、独眼竜」
「…やはりお前、縁屋か?」
「是」

よく覚えていたものだ、そう言って女はまたくすくすと笑う。
笑うと大人びて見える顔が随分と幼くなる。

「Ah…don't know what's what」
「まあまあ、聞きたいことは山程あるだろうがまずはこちらの話を聞いておくれよ」

女はそう言って苦笑すると、不思議な色を帯びた瞳をこちらに向けた。

「わっちは、貴殿を殺しに参った」



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -