長く厳しい冬が過ぎ去り、ようやく奥州の地にも春の訪れを感じさせる花々が芽吹いた。
人で賑わう城下を肌で感じながらあまり目立たないように歩く。
あちこちで聞こえる威勢のいい客引きの声を聞きながら、活気溢れる自らの領地を目の当たりにし、思わず頬が弛んだ。
日の本の極北に近いこの地は、冬は雪に覆われ他の領土とは隔絶される。
長らく続いた冬のおかげで溜まっていた執務はすっかり片付き、代わりに鈍りきった身体を小十郎相手に鍛錬ばかりして来たこの頃。
御目付け役の目を盗み久々にお忍びで城下へと繰り出した。
賑わう城下を抜け、自分のお気に入りの静かな川辺へと足を向ける。
春を感じさせる筑紫や福寿草が雪を割り顔を出し、川辺に色を添える。
戦国の世に確かに存在する穏やかな風景に思わず双眸を細める。

「随分と穏やかな顔だね、独眼竜」

音も気配もなく突如己の背後から聞こえた声に、思わず刀に手を掛けて勢いよく振り返る。
そこには僧侶が纏う着物に身を包み、網代笠を目深く被ったその姿に、抜きかけていた刀から手が離れる。

「アンタは…っ!」

その女の姿に、じりりと脳が焼けつくような錯覚に陥る。
俺の中の何かが激しく波打ち、穏やかだった川の水面が激しく波立つ。

「まあ落ち着いておくれよ、じゃないとここら一帯川に沈んじまう」

そうして女は小さくユキ、と呟くと突然現れた白狼が甲高い遠吠えをあげる。
そこで俺の意識はぷつりと途切れた。






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