バサラ世界にトリップしてから一年と半年。茶屋の看板娘として必死に働いているわたしにおトモダチが出来ました。その名もなんと石田三成さん!(笑えない…)半年くらい前にうちの店にやって来てなんとこのわたしに一目惚れしたらしく(ここ笑うところだよね)、会ったその日に公開告白をしてきた御方です。囃し立てる周りのお客さんたちの視線を浴びながら、まずはお友達からで…と握手を求めたわたしの処世術(スルースキルともいう)に拍手を送りたい。それから10日に一度くらいの割合で必ずお店に顔を出してくれるようになった石田さん。うちとしては常連さんが増えたと喜ばしい事態なんだけど、毎回石田さんが来る度に周りからの生温かい視線と石田さんからの(熱烈すぎる)視線に笑顔で耐えなくてはならないので、疲労感が1.2割増しだ。石田さんはバサラスリーの影響でめっちゃおっかないひとかと思ってたんだけど(だってツンツンリーゼント)、意外にもそうではなく、普通にいいひとで逆に困った。どんな好意だろうと好意は好意、無碍に出来ないのはもともとの性格かそれともこちらに来てひと
の温かさに触れたからか。どちらにせよ、一心に好意を寄せてくれる石田さんに罪悪感にも似た申し訳なさを感じていた今日この頃。いつものようにお昼のお客さんを捌いて一息吐いたところで、外に並べた腰下ろしに深い藍色の着流しを着た男性が座った。早速看板娘スマイルを浮かべて注文を取りに行く。

「ご注文はー……っ!!?」

スマイルを携え顔を上げた男性の顔を認識した瞬間、わたしの中を落雷にも似た衝撃が駆け抜けた。その、男性、は、わたしが、バサラを知ってから、愛してやまなかった、あんなにも、トリップするなら、貴方様の元へと願った、伊 達 政 宗 公だった。(はぁあああん…!!)

「(っ…!?…っっ?!!)」

伊達に看板娘一年と半年やっていない。笑顔は崩さなかったけれど、頭の中はレッツパーリィヤーハー!状態(察して)だ。生政宗公生政宗公ハァハァな感じで荒ぶる脳内を必死に抑制して、政宗公が注文するのを待った。

「Ah…とりあえず茶と豆大福ひとつ」
「かしこまりました」

豆大福とか…っ!もう!きゅんてするだろばかああああ!トリップして一年と半年…大阪に馴染み過ぎてすっかり忘れていたけれど、政宗公のかっこよさは健在ですねうふふふ!(キモくて上等)誰よりも早く美味しくお茶を淹れて静々とお出しする。

「Thank you」
「もう少々お待ちください」

ふおおおお…!中井さんボイスでモノホンの伊達語きたあああああ!!心のテンションがMAXすぎて腰下ろしの角に足の小指ぶつけた。痛い。どこまでも盛り上がっていた心が一気に凪いだ。(熱しやすく冷めやすい女なんです)
女将さんに豆大福を注文して、他のお客さんのところに注文を取りに行く。馴染みのお客さんに今日は旦那はいねえのかと聞かれて嫌だわたしはまだ誰の奥にもなる気ありませんすよーと笑顔で答えといた。そうこうしてるうちに政宗公が頼んだ豆大福が出来たらしい。いざ政宗公の元へ。

「お待たせいたしました」
「Thank you」

ああああその穏やかな笑み最ッ高です政宗公。お忍びなのか自慢の六爪は差していなくて、普通に着流しを着ているだけなのに、色気が尋常じゃないです政宗公の墨色の髪や切れ長の瞳、日本人離れした顔の整い具合。ああ本当に政宗公なんだ。豆大福を差し出した後も思わずじっと見つめれば、鳶色の瞳がわたしを捕えた。

「Are you from east?」
「あ、はい。わたしも女将さんも東の生まれなんです、よ…」

答えてから、しまったと思った。ここ大阪に茶屋を開いている女将さんは生まれは小田原。だから、西独特の訛りがない。それにわたしも、トリップする前は都内に住んでいたから訛りがない。此処で過ごすようになって少しだけ訛ってきたけど、でもまだまだ西のひとにはなりきれてないから、お客さんからそんな風に聞かれることが多い。けれどダメだった。普通に中学英語レベルだから聞き取って答えちゃったよどうしよう!ここバサラだけど戦国じゃーん!案の定目を見開いてわたしを見つめてくる政宗公。ああそんなに見つめないで下さい照れてしまいますなんて言ってる場合ではない。(そしてそんなキャラでもない)

「お前…この言葉がわかるのか!?」

がしりと腕を掴まれ興味津々な瞳がわたしを見上げて来る。ああああこういうときキャラと接点無さすぎてどうやって躱したらいいのかわかんない経験値が足りなさすぎる。どどどどうしようどうしよう!と内心冷や汗だっらだらで脳内で言い訳を考えていたら、視界の隅で銀色が揺れた。次の瞬間、掴まれていたわたしの腕は解放されていて目の前を覆い尽くすのは銀と菖蒲色。ここ半年で見慣れた銀色だった。

「貴様…汚らわしい手で名前に触れるな!」
「Ah?俺はそのladyと話があんだよ。退け」
「貴様のような俗の目に名前を晒すなど…考えただけで虫酸が走る。斬滅されたくなければ即刻立ち去れ」

針のように鋭く硬い声音で政宗公を威嚇する石田さん。その声音は出会ってから初めて聞く低さで、生々しい殺気を含んでいた。

「Ha!この俺がそう簡単に斬られるかよ!」
「貴様如き…秀吉さまの許可を頂くまでもない。この石田三成が即刻斬滅してやる…!」

そう言って刀に手をかける石田さん。待って待って政宗公六爪持ってないんですけどなんか刀一本しか持ってないんですけどていうかバサラスリーだと政宗公石田さんにめっためたにされるんだけどてか石田さんって戦国最速の男じゃなかったっけていうか待って待ってぇえええ!焦りに焦ったわたしは思わず手にしたお盆を放り投げ石田さんの細っこい背中に抱きついた。ぎゅううううと抱きついたまま石田さんに抜刀させないように必死なわたしはすっかり忘れていた。
石田さんが、とてもピュアなことを。
ぎしりと音を立てて固まった石田さん。恐る恐る見上げてみてもやっぱり石田さんは固まったままで、回した腕を放して石田さんの目の前に周り込めば、石田さんは耳まで真っ赤にして固まっていた。いやむしろ気絶していた。顔の前で手を振っても名前を呼んでも反応なし。目を開けたまま顔を真っ赤にして気絶した石田さんにさすがの政宗公も呆れ返ったのか、普通に大福食べて世間話してお茶飲んでお帰りになりました。はい。
道往く人々の好奇な視線に晒されたまま石田さんは気絶し続け、陽が傾いて暖簾を畳む頃にようやく我に返って破廉恥やあああああと奇声をあげながら凄まじいスピードでお城に帰って行きました。出来ればもう二度と来て欲しくないです。まる。

111027