向かった先は下町のお好み焼き屋って感じで、老夫婦が経営していた。
佐助はお好み焼きの豚玉を、わたしは海鮮塩もんじゃを頼んでほんのりクーラーが効いたお座敷に足を崩して座っていた。

「あーテスト終わったねー…」
「ねー…」
「名前ちゃん今回はどうでしたか?」
「んー…いつも通り、かな。佐助は?」
「俺様世界史のヤマが外れて大打撃。今回はちょっときついかも…」
「あー…たしかに今回は世界史覚えんのめんどくさかったよね…」

三教科を三日間、最終日に二教科で、計四日間合計11教科にも及ぶ今回の期末テスト。
普段はあまりテストだからと気合を入れたりはしないけれど、今回ばかりはさすがにそれなりに勉強した。範囲も広ければ教科数も多かったから、余計に。

「俺様暗記苦手なんだよなー…」
「そうなんだ。わたし逆。暗記しかできない」

お互いだらーっと机にうなだれ、汗をかいたグラスを指でつつきながらそう答えれば、佐助がくすりと笑った。何故今のタイミングで笑ったのかがわからなくて視線を佐助に向ければ、佐助は嬉しそうに相貌を和ませたままごめんごめんと謝る。

「いやね、名前ちゃんが自分のこと、話してくれるようになったなーって」

前はきっと相槌だけで会話が終わってただろうに、自分から自分のことを話してくれるのがすごく嬉しくて、だからつい、そう言って嬉しそうに目を細める佐助に、思わず頬に顔の熱が集中するのがわかる。たしかに、佐助の言う通りだと思う。最初の頃を考えれば、わたしの態度は大きく変わっただろう。でもそれをはっきり指摘されるのはなんだか気恥ずかしくてこそばゆくて、つい音を立ててキンキンに冷えた水を飲み込んだ。

「あ、そうだ!」

突然佐助が思い出したように声をあげて、手帳を取り出す。

「名前ちゃんって、夏休みお暇な日ありますか?」
「うん、まあ、それなりに?」
「じゃあさ、たくさん遊ぼ?いろんなところ行ったり、いろんなことしよう?」

そんで、思い出たくさん作ろう?
そう言って佐助ははにかむ。そのほんのりピンクに染まった頬につられるようにわたしの頬もほのかに熱を帯びるのがわかった。
こくりと小さく頷いたと同時に注文していた品が運ばれて来て、ふたりで少し遅めの昼食をとることにした。
佐助の、思ってることをはっきり伝えてくれるところが、好きだと感じた初夏の午後。


小さな変化


∴120903