風を切るような音が聞こえた瞬間、胴体と頭が離れた。
そしてぶちぶちっと蟲が体液を撒き散らしながら男の靴底で潰れて死んでいく。

意識はあるが痛覚はない。
蟲の目から通してみる無惨な自分の姿はなんだか本当に他人事のようだ。



「気分はどうだね、海賊」



名前はなんだったかな?なんてとぼけたように首を傾げる男は脂肪の詰まった腹を撫でて、金属にまみれた手をポケットに突っ込む。
サウナから出された時には蟲の半分以上が死に、胸辺りまでしか再生できなくなっていた。


鼻につくのは、蟲の嫌う香草の匂いだ。
外部からの侵入を拒むためか、逃げ出すのを阻止するためかはわからないが、部屋の至る所から香草の匂いが立ち上がっている。

逃げ場もなく身体に戻ってくるしかない蟲が、弱々しく羽を揺らす。
なんとか踏み潰されずに生き残った蟲がふらふらと身体に戻ってくる。



「なにやら外で喚いているようだ、お前の可愛い蟲がな」



ぐちっ、と踏み潰したままだった蟲を擦り潰すように足を動かした男は大きな鼻の穴から息を出して、黄ばんだ歯を見せて笑った。



「可愛いでしょ。どっかの金豚なんかよりもずっとね」



愉快そうに笑っていた男は名無しさんの言葉に笑ったまま、また高そうな剣を振り上げた。


閉ざされた光


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