「名前ちゃん」

ゆさゆさと、肩を揺さぶられる感覚に閉じていた目蓋をうっすらと開ける。
明るい日差しをバッグに佐助のきれいな夕焼け色の髪の毛がきらきらと揺れる。まだ夢の中にいるみたいだと思った。

「さすけ…」
「待たせちゃってごめんね」

眉をハの字にして微笑む佐助に、目をこすりながら首を横に振る。

「んーん、大丈夫。寝れたから」
「…いつも思ってたけど名前ちゃんって寝るの大好きだよね」
「うん、すきー」

あまり覚醒していない脳で聞かれたことにそのまま素直に頷いてしまった。
佐助がぴしりと固まったのがわかったけれど、訂正するつもりはない。だってわたしの三大欲求の最優先は睡眠だもの。でもちょっと寝たらなんだかスッキリした気がする。んー…と腕を思い切り上に突き上げ伸び上がれば、佐助が頬が若干赤くなっていた。

「どしたの?暑い?」
「え、あ、な、なんでもないよ!それよりご飯!ご飯食べ行こっか!」

慌てたようにぱたぱたと両手を左右に振った佐助。別にもう7月も下旬だしそんな否定しなくてもいい気がするんだけど、まあ本人がそう言うんだからそうなんだろう。
うん、と頷いて机の脇にかけてあったリュックを手に取る。お昼時だからか校庭からは部活の声は聞こえず、蝉がみーんみんとわめきたてる声だけが聞こえる。そういえば今年はまだ風鈴を出していなかった。帰ったら押入れから取り出そう。

「何か食べたいものある?」
「んー…のんびり食べられるところ?」

すっかりさっきの赤みが消えた頬を緩ませそう尋ねてくれる佐助。わたしは優柔不断だからすぐに食べたいものが出てこない。あれこれ複数提案してもらっても結局自分では決められなかったりすることが多いから、許される限り人任せにしてしまう。それを嫌がるひともいるから、自分の悪いとこだなーとも思うけれど別段なおそうともしてない。うん、相変わらず自己中だ。

「じゃあお好み焼き屋行く?俺様美味しいとこ知ってるよー」
「もんじゃある?」
「うん、もんじゃも美味しいよ」
「行く」

佐助は優柔不断なわたしの発言に嫌な顔ひとつせず素敵な提案をしてくれた。もしかしたら気を遣ってくれたのかもしれないけれど、ちらっと見上げた佐助の顔はとても嬉しそうだったのでまあなんでもいっかと思い直した。


優柔不断な睡眠


∴120813