「はーい、じゃあペン置いてー」

キーンコーンと間延びしたチャイムが鳴り、だるそうな教諭の声が教室に響く。
誰かがあ”ー…!と声を上げ伸びをすれば次々とそれに倣うように伸びをしながら後ろから回ってきた解答用紙を前の席に渡していく生徒たち。
夏休み前の期末テスト最終日。ようやく最後の現国のテストが終わった。
解答用紙を提出した生徒から鞄を取り帰り支度を進める。もちろんわたしもそのひとり。

「おーいお前らー、帰る準備すんのは構わんが次全校集会あるぞー」
「はぁー!?」

担当教諭が去り際に告げたそのひとことにクラス中から湧き起こるブーイング。
それもそうだ。四日間にわたるテストをようやく終えたのにこのクソ暑い中体育館に詰め込まれて校長の話を聞くなんて拷問すぎる。
早く帰りたい欲望に身を任せサボり組がちらほらと教室を後にして、残りは文句を言いつつも体育館に向かう。
いつもならわたしも迷わず政宗といっしょにサボタージュを決め込むのだけれど、今日は出てみようと思った。なんでかわかんないけど。

「名前は帰らねェのか?」
「うん。今日はちょっと出てみようかと」
「Hum…じゃあ俺も出るか」
「いや、別に帰ればいいのに」
「Ah?いいだろなんだって」

スクールバックを片手に持った政宗は机にそれを放り投げると、イヤフォンをばれないように制服に仕込むわたしの隣に立つ。

「相変わらずskillfulだな」
「だってダルイもん話し聞いてるだけなんてやってらんないよ」
「I agree with it」

たらたらと体育館に向かう人ごみに流されながらぼーっとこの夏のことを考える。もう一週間もすれば夏休みだ。バイト三昧はいつものことだけど、補講とかあるのだろうか。そしたらめんどくさいな。そんなことをぼーっと考えていたらいつの間にか集会が終わっていて、政宗に肩をたたかれて気がついた。

「またtripしてただろ」
「バレた?」
「当然」

政宗に頭を小突かれて体育館を後にする。一応どんなことがはなされたのか聞いたけれど毒にも薬にもならない話しだと言われてきっとその通りだったんだろうと思う。
さっさと帰っちゃってよかったかなーなんて欠伸をしたらちょっと遠くから名前を呼ばれた気がして廊下で振り返る。

「名前ちゃん!」
「あ、佐助」
「チッなんだよmonkeyか」

やっぱり呼ばれたのは気のせいじゃなかったらしく、佐助が手を振りながらこちらに駆けてくる。政宗の悪態は放置するのが一番だと長年の経験で理解しているためスルー。

「名前ちゃん、今日このあと用事ある?」
「夕方からバイトだけど、それまでならなんもないよ」
「よかった…。あのさ、よければお昼一緒しない?」
「大丈夫だけど、佐助は部活じゃないの?」
「今日はミーティングだけだから!」

すぐ傍まで駆けてきてくれた佐助からのお昼のお誘い。そういえば佐助とお昼一緒に食べるのは初めてかも。なんだかんだ付き合ってもう2ヶ月くらい経ってるのに。

「Hey,fool monkey。悪ィが名前は俺と一緒に飯食うんだよ」
「え?そうだっけ?」
「…って、言ってるけど?」

肩に腕を回してきた政宗の突然の発言に思わず目を見開く。そんな約束をした覚えはなかったんだけど。ていうか佐助の笑顔がなんか黒くて怖い。元親とふたりで怒られたあの日を彷彿とさせるんだけど。

「政宗、ごめん今日は佐助と食べるから」
「…チッ、勝手にしやがれ」
「はいはい拗ねないの」

少し背伸びして頭を撫でてあげれば政宗は押し黙った。いつもなら文句言うのに珍しい。

「じゃあ佐助、教室で待ってるから、また後でね」
「え、あ、うん!またあとで!」

何故か固まっていた佐助にばいばいと手を振って教室に入る。自由解散らしく教室内にはもう生徒はちらほらとしかいない。
とりあえず、佐助が来るまで寝ようと思います。



睡眠学習という名の復習です


∴120804