正直に言えば、エースに相談する気は毛頭なかった。
別にエースを信頼してないとかでも、頭脳的な意味で不安があったわけでもない。普段は短絡的な行動が目立つエースだけど、その実野生の勘なのかしらないけどとても鋭いところもあるし、もともとが兄気質だからかしっかりしているし、船長を務めていただけあって頭の出来自体は悪くない。
ただ、自分がいつも甘えていたのは自分を海賊に誘ってくれたイゾウと軽口を叩きながらも世話してくれたマルコで。ふたりは能力のことも過去のことも全部知ってたからなおさら頼りやすくて。ほかのひとに頼ることをあまり考えていなかっただけ。
それと、もしかしたら自分より後に船に乗った弟に悩みを相談するのは、自分のちっぽけなプライドが許さなかったのかもしれない。
それでも。

「話せる範囲でいいから俺にも話せよ」

ぎゅっと強く手を握られ、真剣な、少しだけ悲しみを混ぜた色の瞳を向けるエースに胸が痛くなる。100%優しさでそう告げてくれるエースが、少し眩しかった。

「あー…わたしも、よくまとまってないんだけど…」
「いい!俺も多分わかンねェから!」

そう真剣に力いっぱい宣言してくれたエースのおかげで少し肩の力が抜けて筋肉がほぐれた。
そしてエースに両手を握られたままぽつぽつと話し始める。
最近の変化のこと、自分が感じた気のせいかもしれない違和感のこと、そして一番よくわからない自分の感情のこと。本当に思いついたまましゃべったから、支離滅裂もいいところなハズなのに、そのどれもにエースが真剣に耳を傾けてくれてときには相槌を打ってくれて、落ち着いて話すことができた。
そして話がひと段落ついたとき、エースがぐぬぬぬ…と低く呻き始めた。

「…わからねェ…」
「だよねぇ…」

そう結論から言ってしまえばわからなかった。何がわからないのかすらもわからないのだけれど。
ベッドにあぐらをかいて腕を組み、未だ低くうなり続けているエースに苦笑がこぼれる。エース自身のことじゃないんだからそんなに真剣に考えてくれなくていいのに、本当にエースは優しい。
末弟の優しさに浸っていると、がばっと顔を上げたエースがでもよ!と声を大きくした。

「サッチのこと、別に嫌いな訳じゃねェんだろ?」
「う、ん。今はそうだね、嫌いじゃない、よ」

あまりに直球にそう尋ねられ、思わず変にどもってしまった。
昔なら、即答できたはずなのに。
そう、嫌いじゃない。別に好きじゃない、だけで。ん?好きじゃない?

「じゃあいいんじゃねェのか?それで」
「え、?」
「別にクルー全員大好きになれるなんてそうそうできないだろ?だったら嫌いじゃないでいンじゃね?別にムリして好きにならなくても、よ」
「あ、あぁ…そう、だね…」

嫌いじゃない、嫌いじゃない、嫌いじゃない…?
そう、嫌いじゃない。好きでもない。…ない?
あれ?どうしようエース。エースに相談する前よりもっと混乱してきたよ?



ふたり寄ったら大混乱


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