それはとても小さな変化。
目をよく凝らさないと気づけないほんの僅かな違和感のかたまり。


いつからか、そう自問をしても正確な答えは弾き出せない。
多分、恐らく、きっと、の3つを使ってようやく蟲が懐きはじめた頃からだと思うという結論に至る。
何が、そうそれが一番難しい問題だ。認めたくないという点だけを見れば世界一の難問だ。
だけれどもう、認めざるをえないところまで来ている。
そう、サッチに心を許し始めているということを。

「まぁそんなに緊張すんなって、敵襲とか殆どないしな?いざとなればサッチ兄さんが死んでも守ってやるから」

初めて会ったあの日に告げられた言葉を忘れたことはない。
サッチのことは、絶対に、好きになれない。あのときそう、感じたのは嘘じゃない。
だけど。

「…なに片意地張ってんだよ、お前」
「無理に愛想笑いされるより、そんな顔見せてくれた方が俺としちゃ嬉しいけどな?」
「ま、俺は大丈夫だから。早く寝ろ、おやすみ名前」
「さすがの俺でも海は持ち帰れなかったからな、小さい海見つけて来たンだ」
「‥頼むから、側にいて」
「なんか辛いことあるなら言えよ。なんもアドバイスとかは出来ねぇかもしんねぇけど一人で抱え込んでるよりはマシだろ?」

見透かしたような言葉を投げかけて人の心の中を土足でずかずかと入ってくる男だと思った。愛想笑いよりも拒絶に歪む顔の方がすきだという変態で、勝手に名前呼ぶし勝手に人の心配するし、勝手に優しさを押し付けてきて、傍迷惑な男だとも思った。
そのくせ、男のくせに、隊長のくせに、泣きそうに歪んだ顔で腕を伸ばして縋ってくるし、いくら家族でも赤の他人なのに、本当に心配そうに問いかけてくるし、訳がわからないのは今も変わらない。いつの間にか人のテリトリーの中に入って触れられたくないところは触れないくせにうまく絆して気づけば一番近い距離にいる。それは名前が望んだことではないのに。

「こらこら、あんま名前をいじるんじゃねぇよ。お兄さん怒るぞ?」

囲まれて家族の輪に加わるのに未だ慣れない名前を気遣うように肩に置かれた手にほっとしたのは、どうしてだろうか。
そしてなにより、サッチの言葉に、胸の奥深くがつきりと鈍く痛んだのは、気のせいだったのだろうか。


繰り返される自問自答


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