例えば1週間前の俺が、この感情に理由をつけたとしたら、お気に入りのオモチャを取られて面白くないから、と結論づけたに違いない。
「アイツ、取っつきやすくなったよなァ」
「あァ、名前のことか?」
ごく最近までアイツの名前を呼ぶ人間は、片手で足りるほどしかいなかった。
なのにあの宴をさかいに、至るところで名前の名前を耳にするようになった。
「あんま苛めんじゃねぇよ、名前は意地っ張りなんだから拗ねたら手に負えねぇぞ」
「いやだって今の顔見た?自分で言ってしゅんってしてたんだけど!」
食堂から聞こえて来たアイツの名前に、甲板を目指していた足を迷わず食堂へと向ける。
名前が聞こえるようになっただけじゃない。名前自身に絡む奴も増えた。つっけんどんな態度も蓋を外してしまえばただの強がりな寂しんぼだ。クルーたちからしたらかっこうのからかいの的なのだろう。
「落ち込んでないっ!」
「はいはい、名前ちゃんは落ち込んでないもんな?」
本当の兄貴なら、妹が周りにようやく馴染めたって、喜んでやるべきなんだろう。寂しさを感じこそすれ、嫉妬の炎を燃やすことはないのだろう。
だが俺は。
「こらこら、あんま名前をいじるんじゃねぇよ。お兄さん怒るぞ?」
軽薄な笑みの裏に獰猛な獣を隠して、分かるものにだけ分からせるように牽制をかける。
名前の表情も、声も、感情も、髪の一本すらも全て俺の獲物だ。
踏んではならないライン
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