二度寝から目が覚めたのは、何だかくすぐったいような感覚に襲われたからだ。



「…ん、」


もう少しだけ寝たい、と思ったが自分の置かれた状況を思い出して無理矢理目を開けた。
目の前には真っ白なコックコートが広がっていて、何やら襟足の辺りで手が動いている。



「…ん?あ、起きた?」


抱き締めていた手が緩んで、逃げるようにサッチの腕の中からシーツの上に転がり落ちる。



「お、起きてたなら離してくださいよっ!」


「いや名前がすっげぇ気持ち良さそうに寝てたから‥邪魔したら悪いかなと思ってさ」


へらっと笑うサッチにカッと顔が赤くなるのがわかって、思わず顔を背けた。
こんな憎たらしい顔が可愛く見えたなんてきっと気の迷いだ。そうに違いないんだ。



「‥大丈夫か?」


へらへら笑っていたサッチが急に心配そうな顔をして名前を再び抱き寄せる。
ぎゅうっと顔がサッチの胸板で潰れて、ある意味大丈夫じゃない。
悪態の一つでも言ってやろうと思ったが、ちらっと見えたサッチの表情が本気で心配しているような表情だったからなにも言えなかった。



「なんか辛いことあるなら言えよ。なんもアドバイスとかは出来ねぇかもしんねぇけど一人で抱え込んでるよりはマシだろ?」


「…なにがですか?別に辛いことなんて何もないです」



だってあれだけ悪夢でしかなかった夢が、凄く幸せな夢になった。
サッチのおかげなのか知らないが、サッチと寝たときは必ず兄の夢を見て、しかもいつも昔みたいに笑ってくれる。
昨日は、昔みたいに愛してるって言って抱き締めてくれたし、辛いことなんて一つもなかった。例えそれが夢でも、事実のようにちゃんと覚えてる。


そう思った瞬間に、後頭部が少しだけ痛んだ。



「……」


「名前?」


「な、なんでもないです!苦しいので早く離してください!」


「なんで?なんか名前抱き締めてると癒されるんだよなー‥きっと蟲がマイナスイオン出してんだな、うん」



つきん、つきん、と独特の痛みが後頭部に走って、名前は顔をしかめた。
この感覚はよく知ってる。
大泣きした次の日に来る後遺症みたいなもので、悪夢を見た日の翌朝によくなる症状だ。



「サッチ隊長、…もしかして、私‥なんか言いました?」




いい夢を見たのに、こんなことになるなんて可笑しい。
それとも昨日の酒のせいだろうか。



「ああ、抱き締めて寝てくださいって言ってたなー」


「…嘘ですね」



締まりのない顔で笑いながらそう言ったサッチはいかにも嘘ですと顔に書いてあった。



「え?何でバレた?」


「バレバレですよ、だって顔に書いてあります」


「俺の願望が幻想を見せたのかも‥」


「やめてください。そう言う迷惑な幻想を見るのは」



ははは、と笑いながら名前を再び抱き締めたサッチは、どこかまだ嘘を吐いているような表情だった。

それに同調するように後頭部の痛みは少しだけ増した。



足りないツーピース


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