最近、蟲たちの様子がおかしい。基本的に蟲は外的要因がなければ勝手な行動はしない。つまり名前の感情に呼応して動くのだ。
だからイゾウやマルコに対しては懐くまでは行かなくても蟲たちもツンケンしないし、オヤジに至ってはむしろ畏怖の念を抱いているらしい。果たして蟲に明確な感情があるのかはよくわからないが、全体的な雰囲気でなんとなくそう感じる。
逆に、名前が敵と判断した者にも容赦はない。名前が命じればその負の感情のまま相手を嬲り殺して来た。それが最近おかしいのだ。嫌いとまでは行かなくても、苦手視していたサッチを前にすれば、以前までの蟲たちは警戒したり騒めいたりあわよくば攻撃の機会を伺ったりしていたのに、最近妙におとなしい。警戒はおろか騒めきひとつなく、むしろ…認めたくはない事実であるが、若干サッチに懐きはじめている。こんなこと生まれて初めてで、正直どうしたらよいのかわからない日々。
そんな中でもサッチとの接触は避けられない訳で。

「名前ちゃーん、なーに考えこんでんのー?」
「ぎゃっ!?」

船縁に肘を預けぼんやりと海を眺めていたらわざわざ気配を殺して後ろから近づいて来たらしいサッチがぬっと名前の肩辺りから顔を出して驚きのあまり変な声をあげてしまった。

「な、な、なんですかいきなり!」
「いやー?可愛い可愛い妹が何やら悩んでるみたいだったからおにーさんが相談に乗ってやろうと思って」
「気にして頂かなくて結構です。むしろ余計なお世話です。ていうか近いッ!」

悩みの種の張本人がへらへら笑いながらそんなことを抜かすものだから思わずイラっときて語調がキツくなる。にも関わらず相変わらず近い距離にある顔に反射的に手を突き出して蟲壁を作ろうとしたのに。

「…あ、あれ……?」

いくら強く念じても一向に蟲たちが動く気配は無く、蟲壁どころか、腕が蟲化することもない。蟲が言うことを聞かないなんて初めてで、思わず目を見開いて固まる。

「んー?どしたー?いつもみたいに壁、つくんねェの?」

初めての蟲の反抗期に呆然とする名前をよそに、ニヤニヤと面白がるように片目を細め口角を上げるその憎ったらしい顔にイラッとする。ここぞとばかりにニヤつきながら顔を寄せて来るサッチをキッと睨み付けて、大きく息を吸った。

「キャアアア!!イゾウ助けてぇ!サッチ隊長に襲われるぅううう!」
「ちょっ!?名前ちゃんそれ反則…ってイゾウ覇気弾はやめてェエエエ」

名前の叫び声を聞きつけたイゾウがすぐさま愛銃を構え覇気を弾の形に具現化した覇気弾をサッチに乱射しはじめる。勿論名前に当てるヘマなどするはずもなく、甲板を逃げ回るサッチをイイ具合に痛め付けてくれた。

後に超スッキリした笑顔でイゾウに駆け寄る名前と、涙目で折れかかったリーゼントを必死に整えるサッチが目撃されたとかなんとか。



体調絶不調


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