「ねえ、そういえば言ったっけ?D組のチヨちゃんのはなし」
「えー?多分言ってなくない?聞いた覚えないわー」
「だっけ?なンか、高等部の吉田先輩と別れたんだってー」
「え、マジで!?」
「うん。先輩が浮気してたらしくて、別れたらしいよー」
「うわーありきたりー」
「でも吉田先輩とチヨちゃんじゃねー?」
「ちょっと、ねー?」

昼休みの女子トイレは情報収集に最適な場所だ。今どきの女子中学生はお化粧を嗜んでいるらしく、こうして昼休みのトイレは化粧直しに来る女の子が絶えないのだ。
お昼ご飯も早々に食べ終え、トイレの一番奥から2番目の個室に陣取り、携帯を片手に便器に座ってじっとしているだけでいろんな情報が入ること入ること。さすが大型私立学校立海のトイレは広くて、ひとつやふたつ個室が閉まっていたって誰も気にせず噂話に花が咲く。その9割が恋愛話なのだから女の子ってのはすごい。この年頃の女子の主な関心事はいつの時代を通しても同じなのねと我ながらオバハンくさいことを考えてしまった。
まあ望みじゃない情報は軽く携帯のメモ帳に要点だけまとめてだけにして、そろそろ昼休みも終わりに近づいて来たし、この子たちが切り上げたらわたしも教室に戻ろうかなと携帯をぱかりと閉じたときだった。

「つかさー、H組の斎藤いんじゃん?」
「あァ、男テニマネの」

ぴくり、耳が反応して、ことさら気配を消して耳をそばだてる。息すらも押し殺して、たくさんの雑音の中から彼女たちの声だけに意識を集中する。

「なんか、もうひとりのマネのことイジメてんだってさー」
「へー、よくあるあれ?アタシがみんなのアイドルだったのに!みたいな?」
「何今の声。ウケんだけど」

たしかに、ちょっと無理がある感じの高い声だったわ。って違くて。

「つーか斎藤ってあれでしょ?黒くて長い髪のさ、ちょっとお高くとまってる感じの」
「そーそ、柳くんの幼馴染みらしいよ」
「あぁ、だからマネになれたんだ」

次から次へと新しい情報がはいってきて、脳内で整理をしながら聞き耳を立てる。

「男テニのみんなは全員自分のもの!とか思ってんじゃね?」
「やべ、痛いんですけど」
「ね、マジ痛い」

その会話を最後に予鈴のチャイムが鳴り、女の子たちはまたぴーちくぱーちく話しながらトイレを後にする。

「…男子テニス部゛柳くん゛の幼馴染みで、もうひとりのマネージャーをいじめてる、ねぇ?」

これは本人に確認を取って、自分の目で見てたしかめる必要がありそうかな。
ぱくり、携帯を閉じて軽く背伸びをする。
まあ、あの子がくだらないイジめをするようなタイプには到底見えないんだけどね。

「やっぱ、なーんか作為的なかほりがすんだよねぇ」

あーあ、と大きくため息を吐いてトイレを後にした。


603(あくまで、女の勘なんですけどね)

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