夏の終わりと共にアイツはやってきた。

見慣れないセーラー服を身に纏った女が教室の前で力なくへらへらと笑うのを片肘を突いて眺めていた。高校3年の9月に転入してくるなんて、運がないことこのうえない。時期外れの転校生に一瞬どよめきが走ったものの、話題性のないありきたりな自己紹介に誰もが大した反応もせずに担任の言葉を待った。
転校生は、窓際の前から3番目の席に腰を下ろした。俺の、左斜め2個前の席。なんとなしに見つめてみれば、女の白い首が目に入った。そういえば、夏だというのに、女の肌はいやに白かった。自分も肌の白さについてはひとによく指摘されるが、女のそれは、あまりに白かった。半袖から伸びた腕も、白く細長い。
ひそひそと右隣りにいる女子が何か後の席に座っている女子と話しているのが耳に入った。が、内容を聞き取る前に担任が今日の連絡事項を伝え始めたので意識はそちらに流れた。どうせ、聞く必要もない、くだらない噂話か何かだろうと気にも留めなかった。
担任が教室を出て行ってすぐ、さきほどひそひそと何かを話していた右隣りの女子が、軽快な、しかし多少の躊躇いを感じさせる足取りで転校生に近づき「あのー…」と声をかけた。

「名前ちゃん…、だよね…?」
「うん、えっと…」
「中1のとき、同じクラスだった麻美だよー!」
「ああ、麻美ちゃんか!すっごい綺麗になってて全然わかんなかったー」
「名前ちゃんだって!全然印象違くてびっくりしたよー!」
「麻美ー、苗字さんと知り合いなの?」
「うん!中1のとき同じクラスだったんだよー」
「え!?ってことは苗字さんってもともと立海生だったの!?」
「うん。でも中1の冬入ってすぐには転校しちゃったから…」
「そうだったんだー。自己紹介のとき言ってくれればよかったのに」
「いやあ、もう随分前の話しだし覚えてるひともいないかなーと思って…」

驚いたことに、転校生は元立海生でまたこちらに戻って来たらしい。一応記憶の中から苗字名前という名前を引っ張り出そうとするも、何せこれだけの人数が在籍する学校だ。同じクラスだったならともかく違うクラスの女子なんて覚えているはずもなく、3人の女子に囲まれて笑みを浮かべる転校生の横顔を見つめた。
その横顔に、なぜだか脳髄の奥の方がぢりりと痛んだのは、気のせいだ。



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