小説 | ナノ



2.




背中に当たるソファの感触と目の前の顔の背後に広がる空間とに目を白黒させる。どうしてシャンデリアがそこにあるのだろうと考えてから気が付いた。自分がソファに転がされたことに。
悪寒に身体を震わせて、それに急かされるように立ち上がろうとするもリボーンに押さえ込まれて身動きが取れない。
「何だよ!何する気なんだよ!?」
思わず大声をあげてしまうほど焦れば、上に伸し掛かっている顔が眉を顰めた。
「大声を上げりゃあ、相手に自分がビビッてることがバレると教えた筈だぞ?」
何があっても動じるな。ボスの動揺は部下の不安を煽ると言葉ではなく経験で教え込まされたオレは、今では大声をあげることなど滅多になくなっていた。なのにどうしてと問われれば、答えはオレを押さえている手にあると答える。
「だっ、なん!?」
肩と首を片腕で押さえつけられ息苦しさに意識がそちらに向いたところを、下肢を押さえていた手がするりと動いた。スラックス越しに腰から尻をなぞる手に驚いて目を見開くと、そのままリボーンの手は尻から内腿を撫でさすっていった。
「触られる度にそんな面を見せてんのか?」
「バッカ、やろ…!こんなことする奴はいないんだよ!」
男のオレを触って喜ぶ変態なんかいるもんかと睨んでも上から退く気配もない。投げ飛ばしてやろうとしてもその隙すら見当たらず焦りは膨らんでいく。
グローブはジャケットに放り込んでしまったことを後悔しても今更遅いというものだ。
ソファの向こうのハンガーにかけられている自分のジャケットを恨めしく視界に入れながらも、逃げ出そうと手を背凭れに伸ばしたがリボーンの手は休むことなく肌をなぞっていく。
布の上から肌を撫でる手に顔が赤らんで息があがり、足を振り上げてリボーンの肩に蹴り上げようそすればその間に手がスラックスの前をぐっと強く押した。
「ひ…あぁ、っ!」
自覚はあったがやはりわずかに兆していたそこを押さえつけられてビクンと身体が跳ねる。オレの声を聞いたリボーンは手を緩めることなくぐりぐりと上下に擦り上げた。
「どうした、ツナ。やめて欲しいんじゃなかったのか?」
「や、やめっ…ぇ!」
「聞こえねぇな」
悲鳴のように掠れた声を無視してスラックス越しに刺激を繰り返す手を振り払おうと手を伸ばしたところで、ネロリと首筋を舐められた。身の裡を這い上がる感覚に目を瞑って堪える。
経験豊富とはいえないが、少なくともされる側になったことなどないオレはどうすればいいのかさえ分からない。
振り払おうとした手を逆に押さえ付けられて、体重をかけられながら上から伸し掛かられてしまえば身動きすら取れなくなった。
焦るオレを尻目に首筋から耳元へと這い上がってきた舌が耳朶を舐める。生暖かいぬめりを感じて声を上げまいと口を固く閉ざすと、面白くないとでもいうように甘噛みされて鼻から息が漏れた。
「まだ分からねぇな。慣れてるからこうなったのか、それともオレのせいなのか…」
なぁ?と低い声で囁かれて下着の中でズクリと疼いた自身に顔が赤くなる。声だけで追い詰められていく自分が恥ずかしい。リボーンの顔を見返すことができずに押し返そうと手に力を込めると、上から押さえていたリボーンの手が指を絡めてきた。
「随分とよさそうに見えるぞ」
息と一緒に言葉を吹きかけられて羞恥に震える。リボーンにこんなことをされているのだと認めたくないのに、リボーン以外にこんなことをされたくないという思いも湧いてきて自分で自分が分からなくなった。
そんな葛藤を繰り返すオレの気持ちも知らずに、リボーンは耳裏に舌を這わせてきた。
湿ったそれでなぞられる度に握られている指からビクビクと反応が伝わってしまう。それを逃そうと吐き出した息に混ざる甘い声に気付いて慌てて息を飲み込んだ。
「よっぽど慣れてんじゃねぇのか?」
そう言うと膝で中心を押された。スラックスと下着の上から強めに擦られて意思とは別に膨らんでいく。
嫌だと首を振ってもソコを弄る動きに操られるように見る間に自身が大きくなって、リボーンの手をきつく握り締めた。
「ヤだ…イヤ、だっ!」
なんでこんな辱めを受けなければならないのかと顔を上げて睨みつけると、オレを見下ろしていた顔が笑っていないことに気付いた。
知らない表情にリボーンの真意が見えなくて何も言えなくなる。何を考えているのか確かめたくて見詰め返せば、視線の先で見覚えのない顔をした男が皮肉げに唇を歪めた。
「疑いは何も生み出さないことを知っている。だがこの想いを抱えたときから膨らんでいった疑いの芽を摘み取る術が見当たらなかった」
「リボーン…?」
言葉の意味を読み取ることが出来ずに名を呼べば、話はこれまでだというようにサッと表情を変えていつもの見覚えのある胡散臭い笑みを浮かべた。なのに少しも安心できない。
リボーンなのに、いつものリボーンじゃない何かを抱えているのか。それとも今までオレが知らなかっただけなのか。知りたいと言い出せない自分の意気地のなさに唇を噛む。
「さぁ、オレに証明してみせろ」
なにをだと言うより早く視界が塞がれて唇に温かいものを押し付けられた。
急に塞がれたせいで思うように息が吸えず空気を求めて口を開ければ、それを待っていたように歯列を割って入って進入を果たした舌によって舌を絡め取られた。
頬や手の甲に落とされる誓いのそれとはまったく別の、唇への口付けに驚いて反応が遅くなる。まさかリボーンにされるとは思ってもいなかったせいで一瞬迷いが生じ、それが後手へと繋がっていった。
ネロリと重ねられた舌に言い知れぬ快楽を感じ、そんな自分を知られたくなくてぎゅっと握る手に力を込めると、それさえ見透かされていたように絡む舌に翻弄される。
誰としたキスよりも気持ちいいそれに抵抗する気力が萎えてきた。
縋るように重ねた指先を握り返されて力強さに勘違いしてしまいそうになる。
ただの興味本位なのに自分ばかり馬鹿みたいだと必死に自分を宥めていたことに気付いてハッとした。
一瞬浮かんだ気持ちの断片に慌てて否定してみても、後から後から湧き出るのはそれを肯定する事柄しか浮かんでこない。自分の裡に向き合っていたオレの反応が気に食わなかったのか、下唇に噛みつかれて意識が目の前のリボーンへと向いた。
「誰のことを考えてたんだ?」
お前だと口から出そうになり慌てて飲み込む。苛立ちの見え隠れする表情を見ていられずに顔を背けて声をあげた。
「誰でもいいだろ!」
馬鹿正直に返事をしたことに気付いても後の祭りだ。しまったと思えど一度出た言葉は戻らない。
鋭い舌打ちを聞き取ると、条件反射で身体が竦む。だけどこれを喋ってしまう訳にはいかなくて、視線を合わせられずにいれば突然シャツの上からリボーンがオレの胸をいじり始めた。
ゴソゴソと何かを探るような動きをする鼻がそこを強めにこすると身体がビクリと仰け反る。
「や…なに?」
初めての刺激に思わず顔を向ければ、シャツの上からそこを咥えられるのが見えて声が上がる。気持ちいいとか悪いとかよりもそんなところに口をつけているリボーンに驚いた。
布越しのおかげか痛みはそれほどなく、もぞもぞするような違和感を覚えただけだった。
そんな場所をどうする気なのかと見ていれば舌で唾液をなすりつけるように撫でられて妙な感覚が湧き上がる。
濡れて張り付いたシャツを舌で擦られる度に強くなる感覚に知らず声が漏れて、そんな自分の声が奇妙に甘くてやっとそれが気持ちいいことなのだと気が付いた。
「いつもそんなイイ顔してんのか?」
「いつも…?」
何のことだと聞き返せば、その顔にすら眉を顰めて睨みつけてきた。
「まぁいい。どこまで本当か確かめるだけだからな」
そう言うと胸元から顔を離したリボーンは、また顔を寄せて唇を重ねる。躊躇いなく差し込まれた舌を待つように受け入れると気持ちよさに意識が飛び掛けた。
握り締める手の平が汗ばんでいて自分が緊張していることが分かる。どうしてだなんていうまでもなくて、だけどリボーンに知られる訳にはいかない。この関係を続けたいならしらを切り通さなくてはならないのだから。
ぎゅっと力を込めて握れば、それ以上の力で握り返されて痛みと息苦しさで眉を寄せる。優しい口付けではなくて、攫われてしまいそうなそれに瞼を閉じて必死についていくと口端から飲み込めなかった分の唾液が零れた。
酸素不足でぼんやりとしはじめたオレに気付いたリボーンがやっと唇を離した頃には、みっともなく肩で息を繰り返すだけで精一杯の有様となっていた。
「抵抗しねぇのはどうしてだ?」
「お前相手に抵抗しても楽しませるだけだろ」
浅い息を吐き出す合間にそう告げれば、リボーンはフンと鼻を鳴らして口角を上げた。
そもそもリボーンはこの行為をどういう意図でしているのかと考えれば答えは明瞭だった。オレを怒らせて本心を聞きだす。簡単だが疚しいところがあれば割りに誰もが引っ掛かるやり口だ。
知られたくない思いはあっても、それを言葉にする気はない。だから無言で顔を見詰め返すと苦い顔をしたリボーンがまた顔を寄せてきた。
「ちったぁマシになったことを喜ぶべきか、それとも可愛げがなくなったと嘆くべきか…複雑だぞ」
「なん…っ?」
どういう意味だと返そうとして、出した声が上擦った。握っていた手が離れていき、そのまま途中で放置されていた中心をスラックスの上から掴まれたからだ。
どんなに答えを拒んでも、そこは嘘をつけなくて布越しですら分かるほど形を変えていた。引き剥がそうと手を伸ばしても強弱をつけて握られてしまえば抵抗する気も起きない。オレが慣れていないということもあるが、妙に上手すぎるそれに男の愛人の有無を確かめたくなったほどだ。
「言っとくが男に手を出すほど飢えちゃいねぇぞ」
「だ、たら…オレにもするなよ、」
読まれたようなタイミングで言われて咄嗟にそう返したものの、言われなくても自分が『トクベツ』なことを知っていた。面倒は苦手なのに一度懐にいれた者には目を配っていること、意外に義理堅い一面も持っていることも知っている。
利己主義だなんだと言われても信用されているからこそ、オレの家庭教師になったのだ。もう一人、リボーンを師と仰ぐディーノさんとオレはやはりリボーンの『トクベツ』だと自覚がある。
それがどうしてこんな気持ちに変わったのだろうか。勘違いならいいのにと頭を振ると、喉元に噛み付かれて身体が飛び跳ねた。


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