リボツナ4 | ナノ



2.




非力なツナ王子がどうにか小人たちのベッドの上に白雪を運び終えると、コロネロと紫の髪の小人がツナ王子の服を引っ張ります。いくら小人といえど、2人がかりなのですからひ弱なツナ王子には堪ったものではありません。
足元を滑らせ尻餅をついたツナ王子をベッドから引き離すと、2人の小人たちはヒソヒソと声を潜めてツナ王子に耳打ちをしました。

「もういいからお前は立ち去れ、コラ!」

「そうだ、そうだ!今すぐここから出て行け!」

「そんな…白雪姫が心配で帰れないよ。っていうか、オレこの森に迷い込んだんだ。帰るに帰れないって!」

情けないツナ王子の言葉に小人たちも言葉がありません。

「…お前の国の行く末が心配だぜ!」

「うううっ!オレもそう思う」

自覚はあるツナ王子がそう答えると、小人たちは顔を見合わせてからヤレヤレというように肩を竦め首を振りました。

「まあいい。オレが外まで案内してやる」

紫の髪の小人が手を差し出してきましたが、ツナ王子はすぐに飛びつくことが出来ませんでした。
躊躇うツナ王子の手を引こうとした紫の髪の小人は、すぐにツナ王子が何を気にしているのかに気付きました。

「人のこと気にしてる場合じゃないだろう」

「そうなんだけど…なあ、白雪姫が目を覚ますまで傍にいてもいいかな?」

後ろ髪を引かれるのか、白雪が眠るベッドへをちらちらを盗み見ては顔を赤くしているツナ王子の言葉に、小人たちは何故か血相を変えたのです。

「いいや!今すぐ出ていけ!コラ!!」

「そうだ、それがお前のためなんだぞ!」

あまりの形相にツナ王子が半泣きの顔になると、さすがに悪いと思ったのか小人たちは宥めるように声を掛けてきます。

「係わり合いにならない相手がいるってことを知るべきだぜ!」

「そう、そう。白雪のことは夢だったと忘れるんだ」

「そんな…」

ツナ王子にとって白雪は理想の女性そのものだったのです。白い肌に黒い瞳はとてもエキゾチックで一度見たら忘れられる訳がありません。白雪さえ頷いてくれたなら、一緒に国に行こうと思っていただけに残念でなりませんでした。
恨めしげに小人たちを見詰めていたツナ王子でしたが、小人たちの意志は固く頑として首を縦に振ってはくれないのです。
仕方なく諦めたツナ王子は、小人たちにことわると眠る白雪の傍に近付いていきました。

「やっぱり綺麗だなぁ…!」

すっとまっすぐ伸びた鼻筋に、長い睫毛は綺麗にカーブを描いています。少し薄い唇は口紅も塗ってはいないのに赤い色をしていました。
それにしても呼吸をしていなように見えると、ツナ王子は白雪の顔に耳を寄せて確かめてみます。

「!!!…ちょ、息!息してないよ?!」

慌てたツナ王子は白雪の胸に手を当てて心音を確かめようとしましたが、それがはしたないことだと気付くと飛び上がって逃げ出していきました。

「…お前ヘタレだな。じゃなくて、ああそうだ。白雪は仮死状態になってるんだぜ」

コロネロがさも当然だというように頷くので、ツナ王子は思わず聞き逃してしまうところでした。

「って、仮死状態?!」

「らしいな。何でもこの仮死状態を解くと、白雪の『呪い』が解けるんだと。今まで誰かを待っている様子だったが、それがどうして今こんな時になったのか……理由は分かるがお前を犠牲にする訳にもいかないぜ!コラ!」

「へ?オレ…?」

コロネロの言葉は抽象的すぎて、ただでさえ頭の回転の鈍いツナ王子にはさっぱり分かりませんでした。
けれど白雪を助けたい一心でツナ王子は考えます。
床の上に座り込んでウンウン唸っていたツナ王子は何か思い付いたのか、大きな瞳を輝かせて手を叩きました。

「分かった!オレが王子だからだよね?国に帰って魔術師やら退魔士やら医者も連れてくるから!」

「いや、そうじゃなくて…」

思わずツッコミを入れた紫の髪の小人の声は、ツナ王子の勢いに掻き消されてしまいました。
我が意を得たりと勢いよく立ち上がったツナ王子は、いまだ目を閉じたままの白雪の顔をそっと覗き込むとぎゅっと目を閉じて顔を近付けていきました。

「わ、バカ…!」

小人たちが止める間もなく、ツナ王子は白雪の唇に自分のそれを重ねるとすぐに家から飛び出していってしまいました。
紫の髪の小人が道案内をする間もなく、です。
勢いで飛び出していったツナ王子とその馬の蹴る足音を聞きながら、小人たちはベッドから起き上がる白雪の…いいえ、白雪だった者の気配を感じて肩を震わせていたのでした。







勢いで飛び出してきたものの、暗い森の道を馬でがむしゃらに駆けてきたせいでまたもツナ王子は道に迷ってしまいました。

「ど、どうしよう…」

右を見ても、左を見ても同じような道なき道が続くばかりです。
紫の髪の小人に道案内をお願いしていたことなどすっかり忘れていたツナ王子は、眠る白雪にキスをしてしまったことが恥ずかしくて戻ることも出来ないのでした。
思い出しては顔を赤くしていたツナ王子の頭の上を奇妙な鳴き声の鳥が通り過ぎていきます。一人になったことなどないツナ王子には、怖くて怖くてたまりません。
馬の背に頭を押し付けて、身を縮めていれば枝の隙間からか細い声が聞こえてきました。

「ねぇ…」

「ひぃぃぃい!オレはおいしくないです!ガリガリだし、食べるところなんてありませんッ!!」

森には怪物が住んでいるという噂が流れていました。ツナ王子もそれを知っています。
だからこの声はその怪物だろうと慌てて馬で逃げ出そうとするも、何故か木々がツナ王子を取り囲むように道を塞いでいったのです。
悲鳴すら上げることもできず、大きな瞳に涙をいっぱい浮かべて震えていれば、そんなツナ王子の前に小さな小人が現れました。

「ちょっと、怖がりすぎじゃないの?」

「は…、あれ?」

全身を濃紺のコートで覆い、フードを目深に被った小人です。への字に曲がった口許がそう不満を告げると、ツナ王子はやっと呼吸を思い出したようにいっぱい吸い込むと肩で息をつきました。
よくよく見れば先ほどの小人たちと同じくらいに見えます。彼らのほかにあと5人同じ小人がいるといっていたことを思い出したのです。
馬の足元に近付いてくる小人に、慌ててツナ王子は飛び降りると小人の身体を抱き上げました。

「ムッ、お前の周りから白雪の気配がするじゃないか」

「知り合いなの?!」

白雪にしてきたことを思い出したツナ王子は、バツの悪さに顔を真っ赤にして視線を逸らします。それに何事かを察したフードを被った小人は、小さな手をツナ王子に伸ばすと思い切り抓り上げました。

「…余計なこと、しなかっただろうね?あいつはお前みたいなボケーっとしたタイプが好物なんだ。せっかく悪魔みたいなあいつを封じてやったのに、キスなんかしてないよね」

そんな甲斐性もないだろうとタカを括った物言いに、ツナ王子はうろたえました。

「何でそれを?!!」

小人同士はテレパシーでも使えるのかと目を瞠っていれば、フードを被った小人の手は容赦なくツナ王子の頬を横に伸ばしていきます。

「いひゃい!」

「しょうがない。それでもこんな場所に迷い込んできたってことは、白雪から逃げとおせたってことか…。なら、今からお前の姿を封じてやろう。そうだな、カエルでいいかい?」

「ぎゃーーっ!いいわけないだろ?!ってか、本気?」

「当たり前じゃない。さあいくよ」

さも当然だと言わんばかりにフードの小人は呪を唱えはじめました。それがどんなものなのかツナ王子は知りませんでしたが、逃げ出さなければカエルになってしまうことを肌で感じたのです。
しかし足は地面に根が生えたように動かすことが出来ず、腕はフードの小人を降ろすことさえ拒否しています。

「ちょ、なんで逃げ出せないんだよ!」

「僕を抱き上げた瞬間に、お前は僕の操り人形になったのさ」

「どんな呪い?!」

「…カエルは嫌いじゃないから、僕が面倒みてあげるよ」

「ちっともありがたくないんだけど!」

などと軽口を叩いている間に呪文の詠唱が終わるのか、ツナ王子の身体が鈍い光を放ちはじめました。
もうお終いだ!と顔を伏せて項垂れていると、周囲を覆っていた木々の闇に一筋の閃光が差し込んできたのです。まるで殻を破るように入り込んできた光に驚けば、腕に抱いていた筈の小人が消え去り、辺りは薄暗い葉の生い茂る森へと戻っていったのです。
ただただ呆然と立ち尽くすツナの前に現れたのは、黒い馬に乗った黒尽くめの騎士と首根を摘まれて手足をバタつかせているフードの小人だけでした。

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