リボツナ4 | ナノ



1.




あるところにとても庶民的な王子様がいました。名前は綱吉といいますが、国のみんなは親しみを込めて『ツナ』と呼んでいました。
王子様という立場ながら、ツナはあまり立派という言葉は似合いません。
どちらかといえば貧相…いえ、親しみのある顔つきと、立派とはいえない体格、それからいつも寝癖がついているような髪の毛をしている王子様でした。これといった特徴のない王子でしたが、唯一人より大きい瞳が人を惹き付けているようです。

そんなツナ王子の趣味はといえば、お城から抜け出すことです。
お目付け役の獄寺は、いつもは24時間365日ツナ王子の傍から離れることはありませんが、たまに…そう年に1〜2回くらい護身用のダイナマイトの買い付けに国許を離れる時があるのです。
ツナ王子はその、ほんのわずかな時間を楽しみにしていたのでした。




馬に跨ってかれこれ2時間ぐらい経ったでしょうか。
あまり乗馬が上手いとはいえないツナ王子は見事に森の中で迷子になっていました。
今日から明日まで、獄寺が帰ってこないと聞いたツナ王子は少しだけ遠出をしようと城から抜け出してきたものの、どうやら方向を間違えて隣国との境目にある森に足を踏み入れてしまったようです。
その森は、深い緑に囲まれた人を拒絶する森でした。近隣の国では『呪いの森』とまで呼ばれていることをツナ王子は知っています。
生きて帰ってきた者がいないとか、見たこともない生き物が生息しているとか…とにかく普段のツナ王子ならば入ることさえ考えないような場所です。
しかし今は逃げ出すことさえ出来ずに、その森を彷徨っています。
薄暗い森の道は馬で通ることの出来る道はほんのわずかしかありません。
そこを選んで進んでいったツナ王子は、結果として奥へ奥へと入り込んでいったのです。

馬もずっと走り通しだったせいで、歩調が緩んできています。
馬の扱いに慣れていないとはいえ、休ませなければならないことぐらいツナ王子にも分かっていました。
辺りからは奇妙な声を発する鳥や、おどろおどろしい色の木が生えていて地面に足をつくことさえ躊躇われます。
けれどここで馬をダメにする訳にはいかないのですから、恐々としたへっぴり腰でツナ王子は馬の背から降りて足を着けたのでした。

「うううっ…!ここ、どこだろう?」

自国の城の周りにある街しか外を知らないツナ王子は、森の生き物がどんなものなのかさえ知りません。
馬の手綱を手にしながら、それでも馬を休ませるためにわずかに聞こえてくる水音のする方向へと向かうと、パシャン!と水が跳ねる音を耳にしました。

「魚かな?これで馬を休ませることができるよ!」

よかった、よかったと馬を引いて先へと進めば、そこに現れたのは広い湖でした。
深い青を映し出している湖面を目に入れたツナ王子は、ホッと息をついて手綱を引くと馬を先に歩かせていきました。
そこにまたパシャ…という水音が聞こえ、何気なくツナ王子がそちらに目を向けると思いもかけない存在がそこにいたのです。
綺麗な綺麗な女の人でした。黒い髪は短いものの艶々と光を反射させていて、こちらを見詰め返す瞳の色はすべてを包み込むような深い黒色をしています。
あまりに綺麗な人だったので、ツナ王子は人魚姫かと思ったほどです。
水面から顔をあげたその人は、こちらの視線に気付くと躊躇うことなくツナ王子の元へと近付いてきました。

「ああああ…あの!はだ、裸ですよ!着る物は、」

隠すこともしないその人の裸をバッチリと見てしまったツナ王子は、慌てて顔を手で覆うと後ろを向いてそう声を掛けました。
王子という立場ながら、
すると女性はやっと気付いたのかフンと小さく鼻を鳴らしてから、木の枝に掛かっていた服に手をのばします。
ゴソゴソという布擦れの音のあと、女性にしては随分と乱暴な手付きで髪の毛を拭きながらツナ王子の隣に身を寄せてきたのです。

「おい、もう一度こっちに顔を向けろ」

「いや、あの…もう着てる?」

「ああ、着てるぞ」

やはり女性にしては荒い口調だと思いながらも、ツナ王子は顔から手を離して横を向きました。やはりとても美しい人でした。長い睫毛の先に見蕩れていれば、そんなツナ王子の顔をマジマジと眺めていた女性はなにやらブツブツと口の中で言っています。

「まあ、悪かねぇな…いくら待っても女なんざ来る訳もねぇし、今までのヤツらに比べたらマシか」

「は?なんのこと?」

言われている意味も分からず、首を傾げて目線の変わらない女性の言葉を反芻してみるも少しも理解できません。なにせツナ王子はあまり賢くはなかったのです。
今まで見てきた隣国や近隣の姫君の誰よりも綺麗なその顔をぼーっと見詰め続けていたツナ王子は、目の前から伸びてきた腕から逃げる間もなく手首を取られると引き摺られるように連れていかれました。

「ちょ、まだ馬が水を飲んでないんだけど!」

「そんなもん、ウチにもあるぞ。いいからついて来い」

「っていうか、君の名前は?」

休める場所があるならと、足取りも軽く歩きはじめたツナ王子は気になって仕方なかったことを訊ねました。

「オレはリボーン…いや、白雪っていうんだぞ」

「へぇ…き、綺麗な名前だね!」

ドギマギしながらも、ツナ王子は白雪姫の住む小屋へと連れていかれたのでした。




馬に水を与え、寝藁の敷いてある小屋へと休ませてからツナ王子と白雪は小さな家へと足を踏み入れました。
小屋もロバ用なのかと思うほど小さいものでしたが、この家もとても小さい造りです。
あまり大きくはないツナ王子でさえ立っていることがやっとの家の中をキョロキョロと見回していると、後ろの出入り口から複数の声が聞こえてきました。

「うわぁあ!なんだ?!なんだ!どうして人間が増えてるんだ!」

「また白雪みてーなヤツなのか?コラ!」

驚いて振り返るとそこには金髪と紫色の髪をした小人が恐る恐るといったていで、扉の影からツナ王子を見上げていました。
それを見たツナ王子は大きな瞳をもっと大きく見開いて、小人たちに目線を合わせるように座り込むと顔を近付けて覗き込みます。

「あ、小人…?すごい!はじめて見た!」

今まで見てきた森の動物たちと比べ物にならないほど不思議な存在でしたが、人の言葉を喋るというだけでツナ王子にとっては安心できる生き物だと感じられたようです。やはり少しオツムが足りないのかもしれません。
その警戒心のない態度とフレンドリーな表情に、小人たちは顔を見合わせてからおずおずとツナ王子に近付いてきました。

「…お前、何者だ」

紫色の髪の小人がそう声を掛けると、ツナ王子は裏表のない笑顔を見せて答えました。

「えっと、ボンゴレ王国の綱吉っていうんだ。言い難いからツナでいいよ」

床に手をつき、小首を傾げるように笑い掛けたツナ王子の顔を見た2人の小人は、何故か顔を赤くして余所を向いてしまいました。
どうしてだろうと不思議に思いながらも、ツナ王子は2人の小人に近付くと必死に声を掛けます。

「なあ、2人とも名前があるんだろ?教えてくれないのかよ?」

どうにかして仲良くなりたいツナ王子は、金髪の小人の服を摘むと顔を覗き込んで訊ねました。
顔を真っ赤にしている金髪の小人は、そんなツナ王子の行動に驚いたように飛び退いていったのです。まるで拒絶されたように感じたツナ王子がしょんぼりと肩を落としていると、少し離れた場所から「コロネロだ、コラ!」と返事が届きました。

「コロネロ、だね?ありがとう!それじゃ君は?」

きっと人間が怖いのだろうと勘違いしたツナ王子が、今度は触らないように気をつけながら紫の髪の小人に顔を向けると、小人が答える前にひょいと襟首を掴まれて家の外へと投げ出されていったのです。
驚いて上を見上げると、白雪が白い腕で小人を放っているところでした。

「…あの、大丈夫かな?」

「平気だぞ。あいつは丈夫さだけが取り柄だ。それにマゾだからああいう扱いはご褒美ってヤツだな」

マゾという言葉は分かりませんでしたが、とりあえずあの小人にとって喜ばしいことなら自分が口を挟むべきではないと考えて曖昧に頷いておきました。
その後ろで紫の髪の小人が「そんな訳あるかーっ!」と怒鳴っていましたが、照れ隠しなのかもしれません。
それよりも、白雪の手にしているものを見てツナ王子は目を輝かせました。

「おいしそうなリンゴだね。ご馳走してくれるのかな?」

艶々とした真っ赤なリンゴはとてもおいしそうです。ずっと移動しっぱなしだったツナ王子は喉の渇きを自覚して、ゴクンと唾を飲み込みました。
しかし白雪はニヤリと笑いながら首を横に振ると、そのリンゴに齧りついたのです。
コロネロと紫の髪の小人が大声を上げて白雪に駆け寄ります。しかし、白雪は齧りついたリンゴをコクンと飲み込むとふらりと身体をよろけさせ倒れこんできました。
驚いたツナ王子は慌てて手を伸ばすとどうにか白雪の身体を受け止めることに成功しましたが、どうしていいのかわかりません。

白雪はどうしたのでしょう?



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