リボツナ4 | ナノ



6.




「親子ピクニックに行くから休むだと?!」

朝早くから携帯電話の着信音で起こされたオレは、低血圧のせいでまともに働かない頭を振るとベッドサイドに置いておいたそれを掴んでどうにか受信ボタンを押した。

時計はまだ朝の5時を越えたばかりだとデジタルの数字が教えてくれている。
しかしでない訳にはいかなかった。何故ならその着信音はリボーン先輩専用なのだから。

出なければどんな嫌がらせを受けるかよく知っているオレは、一つため息をついてからはいスカルですと声を出した。

「突然で悪いが今日の生徒会執行委員会は欠席するぞ。つーか今日は学校も休む。ツナの春の親子遠足に付き合うことになったからな。」

という前置きもなければ、人の都合も聞いちゃいない先輩の話を聞いて冒頭の言葉を叫んだという訳である。

ぶっちゃけ執行委員会は翌日に回しても平気だ。先輩が休もうが知ったこっちゃない。
だが最後の言葉は聞き捨てならなかった。

オレが止めなきゃ誰が止める。非常識と人でなしが服を着た存在である先輩の暴走を止めなければツナが泣く。
そう心に決めているオレは、携帯を握り締める手に力を込め声をひそめて先輩に訊ねた。

「…今日はツナの母親の真似事はしませんよね?」

「するに決まってんだろ。ママンが風邪で寝込んでんだ。その代わりをするのが兄の務めってもんだぞ。」

「違いますよ!あんた前回も言いたかったが、どこの世界に身長180を越える母親がいるんだ!モデルじゃあるまいしそんなでかい女がツナみたいな子の母親だなんておかしいだろう!」

正直、前回の参観会で止めそこねてから、機会があれば一度言ってやりたかった。
先輩にとっては普通でも、ツナにとっては迷惑だと。

いくらモデルといっても通用するような美人だとて、どこから見ても系統の違うこの世の可愛いところだけで出来ているようなツナと禍々しさが滲み出ている先輩とでは親子だとは到底思えない。

だからやっと言ってやれた言葉に自分で自分を誉めていると、先輩が妙に大人しくなってからぽつんと呟いた。

「…そうか、オレが美人すぎるのがいけないんだな。ツナに恥をかかせないようにと気合を入れすぎたのか。しかし元が元だ。これ以下にはなれねぇぞ。」

「って、違う!あんたオレの言葉を聞いていたのか?!」

「聞いてたぞ。てめぇに誉められてもちっとも嬉しくねぇがな。そういやツナにはあれからしばらく女装してくれってせがまれてたんだぞ。そうか、オレが美しすぎるのが悪ぃのか。」

さすがツナである。
あの先輩の女装姿を見ても動じるどころか喜ぶなんてどこまで心が広いんだろう。

そういえば先日のお医者さんごっこ事件(その4&5)では何か先輩に事情があるのだろうと黙っていてくれたことを思い出した。

先輩のような非常識な兄を持つと、度量が広がるのだろうか。
しかしそれでも今日は止めねば他のお母さんたちの手前色々と不都合が生じかねない。

ポジテブすぎる変態な先輩にもう一度女装はツナが困りますと言うと、しばらく黙り込んだ先輩は分かったぞとあっさり頷いて理解を示した。

「本当に分かったんですか?」

「あぁ、美しすぎるママンが紛れていると他の子の母親に嫉妬さちまうってことだな?確かにツナの今後が心配だ。」

「……そういうことにしといて下さい。」

もう反論するのも馬鹿らしいので諦めたのは言うまでもない。

それじゃあなと軽やかな声で回線を切った先輩に激しく不安を覚えたオレは、おもむろに机の引き出しからある一枚の紙を取り出した。

それを片手にパソコンを立ち上げると、時刻表と地図とを開いてその紙に書かれた情報と照らし合わせながら今日の予定を組み立てはじめた。


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