リボツナ4 | ナノ



中学生編




「今年は兎年か…ツナはウサ耳は好きか?」

と、唐突にリボーンが訊ねてきた。
年も明けてもう少しで1ヵ月も過ぎようとしている日にである。
それにつけても『ウサ耳』という単語自体がオタク臭い。こいつはどこでそんな言葉を覚えてきたのかと少々呆れ気味に横に座るリボーンを眺めているととんでもない場所からとんでもない本を引き摺り出してきた。

「こっからだぞ、童貞」

「うわぁぁあ!ちょ、どこ漁って…いや、それは見ちゃダメだってばッ!!」

友だちから回されて押し付けられたその本には、兎の耳をつけた女の子がバニーの服を破られて複数の男に押さえつけられている表紙が酷く刺激的だった。
中学生であるオレたちは、そういうものに興味がある年頃だ。
けれど興味はあっても楽しむ余裕なんてないから、買ってきたこれを捨てることも隠し持つことも出来ないが故にダメツナであるオレに押し付けたのだ。

だからオレの趣味ではないそれを、とても見ていられないと顔を背けながら、リボーンからそれを取り上げると慌てて本が並ぶカラーボックスに放り込む。
それを見ていたリボーンは、やれやれといった顔で肩を竦めると胡坐を掻いた状態でちょいちょいとオレに手招きをした。

「…なんだよ」

イタリアから越してきたばかりのリボーンは、見目の麗しさだけでなく頭の中身も大変よろしかった。ついでに運動神経まで抜群で、女の子たちは砂糖に群がる蟻のようにこいつにメロメロになっていた。
そんなリボーンはどうしてなのかダメツナであるオレばかりを構う。はっきり言って迷惑甚だしい。
よく考えてみれば分かると思うが、何をやらせてもダメなオレの世話を焼くリボーンを見た女の子たちはどこに憤りを感じるのかという話だ。
けれど外国からの留学生であるリボーンの身の上を聞いた母さんはオレの気持ちなんて知らないで、事ある毎にリボーンを夕食へと招待してしまうのだった。

今日も今日とてリボーンのケータイに直接連絡をしていたらしい母さんに呼ばれて、リボーンはのこのこと現れた。たまには遠慮っていうものを知ればいいのに。
リボーンを嫌いな訳じゃないが、リボーンの周りに置かれることが嫌なオレは、それでもリボーンに逆らえないままカラーボックスから離れてリボーンの前までやってきた。
そんなオレを見詰めていたリボーンは、ゴソゴソと着てきたコートのポケットを漁ると黒い何かを取り出すと、おもむろにそれを自分の頭の上に乗せた。

「どうだ?可愛いか?」

「か、かわいいっていうか…」

ピョコンと天井に向かって伸びるそれは先ほど話題にのぼった『ウサ耳』に違いない。
ふわふわの毛があまりにリアルで、思わずそれを凝視していればクルンとした揉み上げを指で弄ると切れ長の瞳を上目遣いにしてこちらを見上げてきた。

「ごめん、それ怖い」

「ちっ!これだからジャッポーネの男はヘタレなんだぞ。オタク臭く2次元にだけ萌えてろ」

「イヤイヤイヤ!オレ、そういう趣味がないだけだからッ!」

少なくとも同級生の男に萌える趣味はない。それがどんなに可愛かろうとも。
やはりというか、リボーンはとても整った顔をしているせいでウサ耳に上目遣いなんてしても気持ち悪くはない。グラビアの女の子たちよりよっぽど色っぽいのだが、いかんせんリボーンはリボーンだから萌えようがないだけだ。

それよりも日本の男がみんな2次元好きだと思われては堪らない。
どうにかして大抵の男は3次元の女の子が好きだと教えたいのに、リボーンの周りの女の子たちに脅され詰られているせいで言葉が出てこなかった。
ううっ…と口の中で呻いていると、自分の頭から外したそれを何故かオレに差し出してきた。

「なんだよ」

「着けろ」

「誰が?」

「お前以外に誰がいるってんだ、ダメツナ」

ダメツナは余計だと思いながら、それでも強引にウサ耳を握らされてしまった。
だけどこれには従えない。

「イ・ヤ・だッ!!」

珍しくきっぱりと言い切ったオレに、リボーンはフンと鼻で笑うと胡坐の上に肘をついてニヤニヤと性質の悪い笑みを浮かべた。

「いいのか?それは京子が教室に落としていったもんだぞ。話し掛けるきっかけになるんじゃねぇのか?」

「京子ちゃん…」

言われてピタリと動きが止まる。
京子ちゃんといえば、ミス並盛中と名高い美少女でリボーンの魔力(魅力以上だからだ)に屈しない笑顔が太陽みたいなクラスメイトだ。
例に漏れずオレもひっそりこっそりと片思い中である。そんな彼女の名前を聞いてウサ耳を押し戻す手を慌てて引っ込めた。

「京子が着けてたのかもな」

「京子ちゃんが?」

柔らかい笑顔に可愛らしいウサ耳を着けた姿を思い浮かべてしまったオレは、顔を真っ赤に染め上げて手の中のそれを握り締めた。
中学男子の妄想力を舐めてはいけない。
うっかりバニー姿まで思い描いてしまったオレは、緩む顔を見られまいとリボーンの後ろにあるオレのベッドへと顔を伏せるようにしがみ付いた。

「お前、誘ってんのか…?」

「どうしたらそうなるんだよ!ってか、あり得ないだろ!」

シーツに顔を埋めたまま叫ぶオレの背後から伸し掛かってきたリボーンが、ウサ耳をオレの手からひょいと取り上げるとオレの頭の上に差し込んできた。
京子ちゃんの預かりモノだと知ったオレは慌てて外そうとするも、ぎゅうと背中の上に膝をつかれているせいで身動きすら取れない。
いくら柔らかいベッドとはいえ息苦しくなってきて、ゲホゲホと噎せると生理的な涙が浮かんできた。

「よく似合うぞ。さすが京子だな」

「…さすが、誰だって?」

聞いてはならない台詞を聞いてしまったオレは、よせばいいのに聞き返してしまった。
すると、オレの上でふんぞり返っていたリボーンはウサ耳の上から顔を覗き込んできた。

「茶色い髪に黒いウサ耳ってのがそそるな」

「変た…、いやそっちじゃなくてッ!」

まさかと思いながらも、好奇心とそれ以上の否定を期待してリボーンを見上げる。するとそんなオレを見ていたリボーンが薄い唇に笑みを浮かべて顔を近づけてきた。

「京子だぞ。知らねぇのか?ダメツナを排除してぇ女どもと同じ数だけ応援する女がいることを」

「………誰と誰を応援するって?」

「オレとお前を、だ」

あっさり言い切られて悲鳴を上げる。すると、眉根を寄せたリボーンが煩いとばかりにオレの口を塞いできた。
口を口でだ。

「んんン…っ、」

息苦しさよりも驚きで瞠った瞳に映るのはリボーンのものと思われる長い睫毛の先と塗りつぶされた肌色だけで、イヤだと思う間もなく歯列を割ってぬるりとしたものが入り込んできた。
押し出したいのにヘタに動かせばどうなるかを知っている。
遺憾ながらリボーンとの接吻はこれで3度目となるからだ。

上から塞がれているせいで首さえ横に振れずに固定された状態で口付けられている。
必死で逃げる舌を容易く絡め取られてしまえば、もう拒否することも出来なくなる。
溢れる唾液をどうにか飲み込んで鼻で息をすると、低い笑い声が聞こえて羞恥にカァと頬が染まった。
最初はそれを知らなくて酸素不足で死にそうになったオレを、2度目のキスで懇切丁寧に指導してくれたのだ、リボーンが。全然嬉しくなかった。
だから気持ちよくなるためじゃなくて、息をしなければ死んでしまうからだといい訳をする。
そんなオレの気持ちすら見透かしているリボーンは、リボーンのキスについていくのがやっとのオレの肩を掴むとゴロンとベッドの上に押し付けた。

「食べ頃兎ってヤツだな」

ハァハァと荒い息を肩でしているオレをベッドの真ん中に仰向けさせて、逃げられないように両手を握って伸し掛かる。
どうするつもりなんだろうと眺めていれば、使えない手の代わりに唾液で濡れた唇がシャツのボタンを咥えてプチンと外しにかかっていた。
器用に外されていくシャツを呆然と眺めていれば、リボーンの頭の上に小さな毛の塊を見つけて小首を傾げた。
何をされるのか考えたくもないせいで、そちらに意識が向かったオレに気付いたリボーンは顔を上げてそれをオレの眼前に近づけてきた。

「よく似合うだろう?オレには黒い狼の耳だと」

「狼…」

「そうだ、お前がウサ耳を付けるならオレには狼の耳をつけて欲しいんだと」

「いや、だからなんでそこでオレとお前なんだよ!?」

可愛い女の子ならともかく、なにもオレが着けなくともいいのではないのか。
しかしリボーンは黒い耳を自慢げに見せ付けると、そのまま顔をシャツの中に押し込めた。

「ひ…ッ!」

下着代わりに着ているTシャツの上からとんでもない場所を齧られて声が漏れた。
布地で挟むように擦られると胸の先のとんがりが固くなってくる。
そこばかりを甘噛みしていた歯の奥から現れた舌が、転がすようにシャツの上の尖ったそれを押し付けてきた。
妙な感覚にゾワリと背中がしなる。
押さえつけられている手をぎゅっと硬く握ると、あやすようにそこを舐められて下肢が昂ってきた。
どうしてそんな場所を弄られただけで反応するのかさえ分からないまま熱い息を吐き出したオレを見て、リボーンは胸元から顔を上げると耳元に唇を寄せてきた。

「ウサ耳を着けたお前を狼のオレが襲うと萌えなんだと、京子たちは」

「……」

応援しているの意味を正しく理解したオレは、無残にも破れた初恋に涙する間もなくリボーンとともに次のステップを昇る羽目になった。

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