リボツナ4 | ナノ



5.




どうにか間に合った変装にほっと胸を撫で下ろしつつも診察の準備を進めているとガラリと教室の扉が開かれた。

元気のいい女性教諭は、オレと先輩を視界に入れた途端ぼわんと頬を赤らめると無意識にか髪を手櫛で直してから慌てて頭を下げた。

「3年1組です。よろしくお願いします!」

上擦った声にカチコチに固まった態度から、先輩とオレの変装は成功したのだと安心した。

オレは眼鏡と黒いカツラを被って極力顔を見せないようにしていたが、先輩は変装もお手の物なので髭でわずかに覆った程度でも大丈夫だろう気軽に考えていたのが不味かった。

見習い医にしては態度が泰然としずぎているが、それでも高校生には見られまい。
これならバレないだろうと子供たちに目をやると、綱吉が茶色い大きな瞳を幾度も瞬きしながらオレと先輩とを交互に見ていた。

「では問診票を持って一番の子からおいで。」

変装というより変身とでもいうべき先輩の役作りに感動すら覚えながらも、ひょっとしてオレのせいで綱吉にバレたのではとドキドキしながら背を向けて診察の手伝いをはじめた。

綱吉限定のショタコンに成り下がったとはいえ、子供の騒々しさは苦手な先輩が切れやしないかとハラハラしつつも、とうとう綱吉の順番がやってきた。

こんな先輩だがどうしてか綱吉には好かれているようで、いつもならば先輩だと分かるとパッと顔を輝かせるのに今は普通だ。
やはりバレてはいなかったか。

ホッと胸を撫で下ろしながらも、よろしくお願いしますと挨拶をして先輩の前に座る綱吉をチラリと横目で窺う。
他の子たちと同じく、体操服姿の綱吉がちょこんと椅子に座ると先輩の口角が5℃上がった。

「それじゃあお腹を出して。」

言われるがままに体操服に手を掛けた綱吉が、診察しやすいようにと一生懸命服を捲りあげる。
以前一度だけ間近で見たことのある綱吉の胸部と腹部はまだ幼さの抜け切れていない皮膚の薄い肌に桜色のようま淡い胸の先がどこかエロかったことを思い出していた。

見るとはなしに視線が向かってしまったオレの足を先輩は思い切り踏んで形のいい眉を顰めた。

「ぐおっ!」

「どうしたの?」

「なんでもない。このお兄さんは見習いだから少し手間取っているだけだよ。」

声色まで変えた先輩のいい訳に感謝なんかしたくもないが、バレるよりはマシだと足を押えて蹲っていると体操服を捲ったままの綱吉がこっそりとオレの耳元に声を落とした。

「スカルさん、大丈夫?おにいちゃんが足踏んだみたいに見えたけど…」

「なっ!」

バレていることに驚いていると、またも声をひそめながら耳打ちをしてきた。

「なんかあるんでしょう?おにいちゃんの顔を見てすぐに気付いたけど内緒なんだよね。」

とすぐに顔を離して元の先輩の前の椅子へと納まった。それに訝しげな顔を見せた先輩だったが、綱吉が元に戻るとすぐに機嫌を直した。

そんなだからバレたんだと先輩に責任を押し付けていれば、聞こえているぞと脅されて顔が引き攣る。
だから心を読むな。

目の裏、動き、口腔の色や異常がないかを確かめたのちに聴診器を使った診察となる。
小学生は小児科医が診る。それは小児特有の病があるからでその診察は経験がものをいうといわれているらしい。

その点からしても先輩ではムリだと思っていたのだが、この変態…いや人でなしはやはり人外だとでもいうのか一人だけ異常があった子供の問診票に何かを記載していた。

さて綱吉はというと、毎日一緒に生活しているのだから異常があれば当然分かるというものだろう。
診察に身が入らない様子の先輩は聴診器片手にノリノリだった。

「息を吸ってー吐いてー。吸ってー、吐く。」

先輩だと分かっているのに分からないフリをしている綱吉はその小さな胸を変態の前に晒している。
かくいうオレも先輩を止めにきた筈なのに、止めるどころか手伝いまでしている始末である。
情けない。情けないがそれも本望だとさえ思う。オレも終わった…。

他の子よりたっぷり時間を掛けた診察が終わると、作りきれない笑顔を零した先輩に、綱吉の担任と思われる女性教諭がはうんと奇妙な声を上げていた。
またファンをムダに増やしたらしい。

綱吉以外はどうでもいい先輩はそんな女性教諭のことなど歯牙にもかけず、医師として綱吉の身体を触れたことに満足したようにニヤついていた。
その脂下がった顔をどうにかしてくれ。

その後は身の入らないながらも診察を終えた先輩に女性教諭が児童そっちのけで声を掛けるも言葉は優しいが態度は冷たい先輩に肩を落として教室へと戻っていった。

片付けを終えたオレが先輩と声を掛けると、どこかの世界にいっていたらしい先輩がオレに向かって非常にイイ笑顔をみせながら立ち上がった。

「パシリ、オレは天職を見つけたぞ。なにか知りたいか?」

「…」

「そうか、そうか。そんなに知りたいか。」

「何も言ってないです、先輩。」

というか聞きたくもない。
聞いたら止めなきゃならなくなる。
だというのに人の話を聞いちゃいない先輩は腕組みをしながらこちらに近寄ってきた。

「それはな、ツナの専属医だぞ!」

「やめて下さい、綱吉の迷惑です!」

あんたと兄弟になってしまっただけでも充分不幸なのに、これ以上綱吉を不幸にしてなるものか。
ショタコン道に堕ちてしまったが、それでも人としてまたは男として大切な子には幸せでいて貰いたいと思うものだろう。

それを聞いた先輩は組んだ腕から伸びた手で自らの顎を撫でると、眉間に皺を寄せている。
どうせ碌なことを考えてはいまい。
どうやって改めさせようかと思案していると、ガラっと入ってくる人影があった。

「よう、どうだった?」

先ほどのいい加減な専属医だ。頬に手型が残っているところを見ると、保険医に素気無くされたのだろう。
そんないい加減な医師に診察した児童のカルテを見せて報告していた先輩は、突然くるっとこちらを向くと親指をぐいっと横にいる医師に突き立てた。

「心配ないぞ、パシリ。オレはこんな無節操じゃねぇ。ツナ一筋だ。」

「って、そんな心配は1ミリもしてないです!」

誰が医師になるイコール女性関係に無節操になると言った。いやいや、それを言うなら先輩は元から女性関係に無節操だろう。
やはり通じていなかったかと頭を抱えていると、誤解した医師がなんだなんだ?と先輩を冷やかしにかかる。

「ひょっとして未来のかわいこちゃんでも見つけたのか?しかし、お前らが高校生だからってちっと幼すぎやしねぇか?」

「くらだねぇこと言ってんなよ。オレはツナ一筋だぞ。んなこと言ってるとここの女性教師の携番教えるってのはなしになるぞ?」

「リボーンくぅん!君は頭もいいし、想い人一筋のイイ男だ!」

オイオイオイ!
それでいいのか日本の医療業界!という突っ込みを余所に馴れ合う2人の肩を後ろからガシッと掴んだ。

「仕事しろ、薮医者!あんたは綱吉の笑顔のために自重しますと100回唱えてから綱吉と会うように。分かったか!」

綱吉の明るい未来のために、人でなし改め変態の先輩と戦う覚悟を固めたのだった。


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