リボツナ4 | ナノ



2.




最初に渡されたのは口当たりの軽い甘口の白ワインで、初めて飲むそれの意外な美味さにぐいぐいと杯を重ねていった。
今日は調子がいいかもと思いながらも4杯目に口をつけていると、つまみとして用意されていたブルスケッタを口許まで運ばれて躊躇いなく齧りついた。口端から零れたそれを舌で舐め取っていると、オレの口の中に押し込んだ指が唇を撫でていった。

「ん?そっちも付いてた?」

唇を拭い取った親指が玉ねぎらしきものを乗せていて、それをそのまま舌で掬うとまたブルスケッタを摘む。何だかいけないものを見てしまった気がして慌てて視線を逸らすと、またもリボーンはそれをオレの口許に押し付けてきた。

「もういいよ。一人で喰えるって」

手で押し返せば面白くなさそうに鼻を鳴らしてオレの顔を覗き込んでくる。一向に進まないどころか、まともな会話すらないこの状況に居心地の悪さを感じて4杯目を一気に煽ると突然視界が回り始めた。
突然アルコールが牙を剥いたように身体中を巡り、血管の一本いっぽんまでそれで満たされたように血液が沸騰する。
パタリとベッドの上に倒れ込むと高い天井の向こうからリボーンが顔を出して呟いた。

「大丈夫か?そいつは飲み口は軽いが度数は日本酒よりも高いんだぞ」

「そーいうことは先に言えよ…」

日本酒ですらお猪口1杯を舐めるだけで精一杯だというのに、それより度数が高いものを4杯も飲みきったなんて信じられない。
アルコールの過剰摂取のせいで異常な心拍音を立てる心臓を感じて目を瞑ると、横からスプリングの音を響かせて沈む振動が聞こえてきた。
荒い息のまま顔を横に向けて目を開ければこちらに乗り上げようとする影が落ちてきて、それに身体が強張った自分を恥じた。

「どうした。その格好じゃ苦しいだろ?」

「う、ん…」

伸びてきた手がシャツのボタンを外していく。沸騰しそうだった身体が少しだけ外気に晒されて冷やされたことで息が楽になる。そのままリボーンの手が下へと伸びてベルトまで外したことを気にもとめずに手足を伸ばすと驚くほど近くにリボーンの顔が迫ってきた。

「なん、だよ」

腰が引けるなんておかしいかもしれないが、片やエリート然としたスーツ姿のリボーンと田舎のしがない花屋のオレとでは比べるまでもないほど差は歴然としていた。
アルコールで濁った頭の中でもそれだけは消えなくて、知らず視線を逸らしているとそんなオレの顎を掴んで無理矢理顔を覗き込んできた。

「お前、結婚は?」

どうして突然そんなことを聞かれたのか分からなかったが、30を目前に控えた男が恋人さえいないなんて堂々と言えたもんじゃない。どうでもいいだろうと言葉を濁すとそういうリボーンはどうなんだと訊ね返した。

「仕事仕事でそんな暇もなかったが…丁度こっちに来る仕事が入ったからな。チャンスは逃がさねぇぞ」

「ふうん?」

やっぱりリボーンは日本に好きな子がいたのかとチクンと胸が痛んだ。だがそれも遠い昔の話だとどうにか飲み込んで起き上がろうと肘をついた。そこを上から押されてまたもベッドに沈み込む。
驚きで目を瞠るオレの上に乗り上げてきたリボーンは、オレの手首を掴み上げると頭の上に纏め上げて顔を近づけてきた。

「そういう訳だから大人しくしとけよ」

「は?」

ただでさえ弱いアルコールを許容量より多く摂取した自覚のあるオレは、これは夢なんだろうかとさえ思った。
何せ10数年ぶりに初恋の相手と逢い、しかも今は自分の口を口で塞がれている。同じ性別だというだけでありえないというのに、相手がオレでは釣合わないどころじゃない。浅ましい幻覚だと羞恥に顔が熱くなって、顔を横に向けるとリボーンの唇がそれを追い駆けまた塞がれる。
思うように息が出来なくて空気を求めて口を開けば、それを待っていたように舌を差し込まれて無理矢理歯列を割られた。
自分の飲んでいたワインとは別の香りと味が口に広がって、やっとこれは現実なんだと分かる。
慌てて逃げ出そうと腕に力を入れようにも身体に力が入らず、次第に口付けが激しくなって意識が混濁しはじめた。ぬるりと舐められた舌が痺れて息がままならない。
気持ちよさとアルコールのせいで逃げる気力すら奪われたオレを組み敷いたまま、リボーンの手がズボンの前を広げて下着の奥へと手を差し込んだ。

「ひっ…っ!」

「どうした?随分と溜まってんじゃねぇか…」

まさかそんな場所を握られるとは思わなかったオレは、自分の手とは違うそれに声を漏らす。キスひとつで勃ってしまったそこを握られたことで思い知らされて身体が震える。
いうことを利かない手足をバタつかせて逃げ出そうともがくと、起立を強く握られて悲鳴があがった。

「いっ!」

「逃げるな、ひどくしたくなる」

耳元に寄せた唇からゾクリとするような低い声で囁かれて心臓が煩く鼓動を伝えてくる。逃げられないと悟ったオレは身体の力を抜くと、すべてアルコールのせいにして目を瞑った。









それから2週間を経て商店街は最後のクリスマスを惜しむようにどの店も賑やかさを盛り返していた。
うちの花屋はといえば、これまた他の店のお陰で例年になく売れ行きがいい。
今日などは花束を買い求めるお客さんでてんてこ舞いで、例の件の最終打ち合わせにと指定された時間をオーバーする羽目になった。
遅刻する旨を伝えたオレに他の店の商談が済んでからこちらに来ると、素っ気無い態度でリボーンは電話を切った。
当然といえば当然なのに落ち込む気持ちを隠すことが出来ない。アルコールの勢いであんなことをしてしまったが、それを悔やんでいるだろうリボーンを知って苦いため息を吐き出した。

「未練がましいって、ホント」

この2週間、リボーンからの連絡を待っていたのに届いたのはこの封筒に入った商店街再建計画案と今後のこの店の契約について簡素に纏められた紙切れが2枚だけ。
教えられた携帯電話に連絡を入れる気にもならなくて、だけど消去することも出来ない番号は先ほど初めて店からかけたがもういらないだろう。
アドレスから消してしまおうとしたそれをしばらく見詰めた。
どうしてもそのボタンを押せない自分の優柔不断ぶりに頭を振って、気分転換に売れ残った花に手を伸ばした。
渋い色のピンクを基調に濃い目の赤と紅茶色のバラを添えてホワイトとわずかなグリーンでブーケを作り上げていく。
周りの音さえ聞こえなくなるほど作業に没頭していると、頭の上から影がかかってやっと自分以外の人の気配があることに気が付いた。

「恋人に、か?」

「いや、その…」

誰をイメージした訳でもないブーケにそう声を掛けられて言葉に詰る。いるとも答えなかった代わりにいないとも言わなかったせいで誤解しているらしいと気付いて顔を上げたが、そんなオレの返事を待つでもなくリボーンは置きっぱなしだった契約書を取り上げると、ヒラヒラとオレの鼻先に翳した。

「判子が押してねぇぞ」

「…説明は書いてあったけど、聞きたいことがあったから」

「何が不満だ?立ち退けとも、移転しろとも書いてねぇだろ。新しく建てるマンションの1階に入居できるんだぞ」

確かにオレに不満はない。新しく転居する際の工事費も足が出ない程度にまかなって貰える。だけど。

「オバちゃんに話してきたのかよ?」

「あぁ…」

「オジちゃんにも?」

「何が言いたい」

少しも表情が変わらないことに苛立ってリボーンの手を叩くと契約書が床に落ちた。
店じまい後の店内は掃除で床が濡れている。そこに落ちた契約書はしみを作って字が滲んだ。
睨み付けるオレの視線を無視したまま、それを拾い上げたリボーンは辺りを見回してゴミ箱を見つけるとそれをポイと投げ入れた。

「そそっかしいのは相変わらずだな。まぁいい。予備をもう一枚」

「リボーン!」

大声を張り上げたオレに肩を竦めてから振り返った。

「聞こえてる」

そう言うとブーケを持つ手をぐいと握られてあまりの痛さにそれが手から零れ落ちた。
ぐしゃりとひしゃげたブーケが床に転がる。

「おじさんにもおばさんにも世話になったことは覚えてる。だがそれだけじゃ生きてけねぇだろ」

子供じゃないんだと吐き出した顔は今までと違う色を乗せていて、それが何かを知りたくてリボーンの顔を覗き込んだ。

「お前、何が欲しいんだよ?」

瞬間、見たこともない顔を浮かべたリボーンに伸ばした手を逆に握られて両手の自由を奪われた。先ほど見た表情はまぼろしだったのかと思うほど普段通りの無表情からうっすらと嫌な笑みを浮かべて顔を寄せてきた。

「言った筈だ。チャンスは逃さなねぇと」

すごい力で腕を引かれカウンターまで引き摺られる。勢いで打ち付けられた背中が痛くて呻いていると、その上から身体を寄せられてギクリと震えた。
エプロンの脇から入り込んできた手がTシャツの中の肌の上を這っていく。逃げ出そうと手をカウンターの奥に伸ばすと、今度はズボンにまで手を入れられて声が漏れた。

「イヤだ…っ!こんなの何の意味もない!お前は欲しい物全部持ってるのに…なんで」

気持ちを見透かされたように求められても気持ちが伴わなければ虚しいだけだ。
零れそうになる涙を唇を噛み締めることで堪えていると、ズボンの中へと侵入を果たした手が下着に手をかけた。
されたことを覚えている身体は持ち主を裏切って期待に震えている。ヘソを辿って奥へと差し込まれた手が中心へと伸びていった。

「何でも…か。だが一番欲しかった物が手に入らねぇならそれに何の価値がある?」

いっそ嫌いな相手ならよかったのに、嫌だとだだを捏ねる気持ちよりも正直にそこは簡単にリボーンのされるがままに膨らんだ。逃げたいのか逃げたくないのか分からない。
体重を掛けられて胸と下肢とをまさぐられて息があがるオレをリボーンは追い詰めていく。

「来るのが遅かったのか、それとも忘れちまえばよかったのか…どっちも今更だな」

「なにが、」

問い掛けに答えはなくて、肌の上を這う手にも容赦はなかった。Tシャツの奥の胸の尖りに絡ませた指が執拗にそこばかりを弄ると下着の中の中心が熱を持ちはじめて硬くなる。
声を殺そうと伏せた項に歯を立てられて、先日のことを思い出したように起立の先からぬめるものが噴き出した。
いくら店が閉店時間を過ぎているとはいえ、リボーンが入ってきたということは出入り口が開いているということだ。カウンターにしがみ付いた格好を誰に見られないとも限らない。
リボーンの腕に手を伸ばすと頭を振ってどうにか口を開いた。

「やめ…だれかに、見られたら」

「あぁ、恋人に見られたら困るか。こんなに濡れて物欲しそうな姿じゃな」

オレの手など邪魔にもならないとズボンを掴むとそのまま引き摺り下ろされた。空調も切れている店内の冷たい空気に下肢を晒されてブルリと震える。手で尻を隠していると、リボーンの指はエプロンの下のTシャツを捲り上げて胸の先を左右同時に摘み上げた。

「ぁ…!」

「エプロンがビショビショだぞ?」

言われて下を向けば起立の先から零れた先走りがエプロンを汚していた。摘まれた乳首まで押し付けられてあまりに卑猥な光景に首を横に振る。
そんなオレを後ろからまさぐっていた手が離れると、自分のものではない携帯電話を目の前に差し出された。
割れた音を響かせるそれが何かを映し出している。はぁはぁという息遣いにぎょっと目を瞠ると耳元から含み笑いが聞こえてきた。

「これって…」

浅ましく強請る声に耳を塞ぎたくなる。ガタガタと震えながら後ろを振り返ると、眇められた瞳が楽しそうに緩んでいた。

「今の携帯はすごいだろう?なぁ、ツナ」

自分の痴態を修めたそれに言葉を失くした。

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