4.ショタコンだショタコンだと言い続けてきたが、よもやここまで変態に成り下がっているとは思ってもいなかった。 『変態』 辞書で意味を引くと@形を変えることA生物または動物が発育中、時期により形を変えることB異常な状態とあった。 形を変える。そう、確かに形を変えているのかもしれない。擬態する生物さながらに緑色のタイツに枝を模した小道具に、今まさに顔まで緑色に染めんとしている先輩の後ろから声を掛けた。 「…先輩、その格好でどちらまで行く気なんですか?」 「ツナの小学校だぞ。今日は身体測定の日なんだ。兄としてツナの成長はいつでも知っていなきゃなんねぇからな。」 そんなことはない。 そもそも知りたいのならば、家に帰ってから綱吉に尋ねればいいだけだ。 「もう一度聞きます。その変質者みたいどころか、変質者そのものの格好でどんな変態行為をしに行くつもりなんだっ!」 オレの言葉に手を止めた先輩は、いつもは涼しげだの冷たいだのと女の子たちに誉めそやされている目元をこちらに向けた。 「変態だと?」 「今のあんたは変態そのものだ!」 言い切ってやると、少し考え込んだ先輩は頭の上の緑の塊を脱ぐと頷いた。 「分かったぞ。ツナのためにここは衣装を変えるべきなんだな。」 「ちがーーう!」 常人では推し量れない精神構造の持ち主相手にどうやって常識を説けばいいのか、オレには分からなかった。 ところ変わって綱吉の通う並森小学校前。 昨今では警備の厳しくなった小学校の校門の前に立つ警備員に、軽く頭を下げただけの黒髪に白衣姿の男とその助手と思われる紫がかった髪の男は何食わぬ顔で小学校へと入り込むことに成功した。 ちらりともこちらを振り返らない警備員の任務怠慢さに内心で腹を立てながら、この小学校の防犯意識の薄さをあとで電話して抗議してやろうと思いつつも目の前の男の後ろをついて歩く。 さも当然だと堂々と前を行く男は勿論医者に化けたリボーン先輩だった。 そして看護士を装った助手はオレことスカルである。 将来は医者か博士かはたまは政治家かなどと様々の人材と繋がりがある先輩は、医師の仕事を傍で見たいとこの学校の専属医に声を掛けならば見習い医師として入ってくるよう約束を取り付けたらしい。 いくら老け顔…いや、大人びた面構えだからとて見習い医には見えまいというオレの淡い期待などブッ飛ばしてこうして入り込んでしまったという訳だった。 一番の咎人はこんな先輩を信頼して見学をさせてくれる専属医にあると思うのだが、どうやら先輩とその医師とは持ちつ持たれつの関係にあるらしい。 一体どんなふざけた医者だと思いつつも、先輩の暴走行為を止められるのはオレだけだという自負によりこうしてついてきていた。 綱吉の健やかなる成長を心底願う。 そんなオレの内心の決意を余所に件の医師が先輩を見つけて声を掛けてきた。 「よぉ!遅かったじゃねぇか。そいつは?」 先輩と同じくらい背の高いその医師はぼさぼさの黒髪に眠そうな眼、本人はワイルドを語っていそうだがただの不精にしかみえない髭を生やしていた。 これが今回の諸悪の根源かと眺めていると、先輩は事も無げに告げた。 「パシリだ。」 「パシリじゃない!」 「ふん、まあいいか。そんじゃオレの代わりにしっかり働いてくるんだぞ。オレは今から保険医のミサちゃんと手取り足取りなひと時を過ごすんだから。」 「分かっているぞ。」 いくら先輩が天才だからとて医師免許も持っていないというのに正気か?!と思っていると、先輩がチラとこちらを振り向いた。 「オレは日本に来る前に向こうの大学を出て医師になる過程まで修めているんだぞ。てめぇに心配される謂われはねぇ。」 「あんたバケモノですか!ってか、人の心を勝手に読むのは止めろ。」 「読んでねぇぞ。てめぇみてぇな凡人の思考回路なんざ読まなくても分かるからな。」 フフンと鼻で笑われたが、そこまで分かるなら普通の人の行動も是非覚えておいて欲しいものである。 人でなしの先輩と無責任な医師により、見習い医と看護士して綱吉のクラスだけ請け負うことになったオレたちは一階にある教室で綱吉の到着を今か今かと待ち構えていた。 聴診器片手にご機嫌な先輩を眺めながらもため息しか出てこない。 「先輩、ちょっと確かめたいことがあるんですが…」 「パシリの質問なんぞに答える義務もねぇが、今は機嫌がいいから答えてやってもいいぞ。」 だからパシリではない。だが今はそこに引っ掛かっている場合でもなかった。 すぐそこまで迫ってきている子供たちの声を耳に入れたオレは、声のトーンを落として訊ねた。 「先輩、あんたなんのためにここに来たんですか?」 「勿論ツナの成長をこの目で確かめるためだぞ!」 何を当たり前なことをと返されて思わず繰り返してしまう。 「綱吉のためなんですよね?!」 「…?ああ、それがどうした?」 「だったら顔は変装した方がいいと思いますよ。」 「なんでだ?」 意味が分からないとこちらを見る先輩にズビシ!と指を突きたててやった。 「綱吉が通っているんですよ?高校生の兄が医者の真似事をしていたなんて知られたら、綱吉が可哀想じゃないですか!」 「そういうもんなのか…?」 「ええ!なのでこの付け髭を!ついでにカツラも!」 常識とかけ離れた先輩にあんたの存在自体が迷惑なんですと言い渡すと何故か素直に納得していた。 「分かったぞ。こんなにハンサムで頭のいい兄がいると分かるとツナが騒がれちまうんだな。」 「全然分かってねぇよ!」 ポジテブな変態ほど厄介な存在もない。 . |