リボツナ4 | ナノ



両思いだろ、誰がみても




まさか沢田の就職先が通っている高校の図書室だとは思ってもみなかったが、そうなると俄然元気になったのは先輩だった。
今日も今日とて単位が足りている授業はすべて図書室で過ごしていたらしい。どこの出来立て馬鹿ップルだと思うところだが、ことはそうそうスムーズに進むというものではない。

というか、先輩はオレの告げ口のせいで実はまだ沢田に誤解されたままなのだ。
いつバレるのかと冷や冷やしていたというのに、一向にバレる気配もない。何故なら沢田はそれを先輩に確かめてこないからだ。
普通に考えればそんなことは訊ねる筈もないが、それでも沢田が先輩を憎からず思っていることなど誰が見ても明らかなのにである。
そしてそれは先輩も同じだった。

沢田が赴任してきてからまだ3日目だが、先輩の取り巻きがガクリと減ったのがその証拠だろう。
涙ながらに、または怨嗟を込めて沢田を睨む女子生徒のなんと多いことか。
鈍い沢田は気付く訳もなく、前任者の司書は好かれていたんだねと別方向に勘違いをしていた。

そしてオレは今、また先輩によって近所のコンビニに走らされている。
沢田の好きな新発売の菓子を買いに。勿論沢田のためにである。
走るのも馬鹿馬鹿しいが歩いていては昼飯を食い損ねると、早歩きで図書室へと向かえば賑やかな声が聞こえてきた。

「だからいいってば!」

「何でだ?お前じゃその本はしまってこれねぇだろ?オレがしまってきてやるっていってるんだぞ。」

「っ!!オ、オレだって台を使えば届くって!…多分。」

どうやら返却された本がかなり高い位置にあったものらしく、それを巡って先輩と沢田が痴話喧…いや、口論をしているようだった。
『図書室はお静かに』のポスターがそこかしこに貼ってある図書室の扉を開いて騒動の中心へと近付いていくと、顔を赤くした沢田といつもの無表情がどこかへいっている先輩とが角を突き合わせていた。

「あんたら、ここは図書室だろう?迷惑じゃないのか?」

この騒動にもめげずに普通に本を借りにきた生徒もいないことはないのだ。事実、沢田と先輩を迷惑そうに遠巻きに睨んでいる数人が確認できる。
それでも直接言えないのは先輩の怖さを知っているからに違いない。
先輩はともかく、沢田は赴任したてなのだ。敵は少ないに越したことはないと忠告がてらに割って入れば、先輩はピクリと片眉を跳ねさせ、沢田はハッとした様子でやっと周りが視界に入ったようだった。

「ごめん…」

ペコペコと周囲に頭を下げながら図書当番にカウンター作業を言い付けて、件の本を片手にカウンターから飛び出していく。そんな沢田の後を追っていくと、オレを追い越して先輩が沢田の横に並んだ。

「強情を張らなきゃよかったんだぞ。」

「うるさい!」

顔に似合わない怒鳴り声に後ろを通り過ぎた男子生徒がギョッとした顔で沢田を振り返っている。そんな視線すら忌々しいのか先輩がギロリとその生徒を睨むと慌てて顔を伏せて逃げ出した。
どこまでも狭量な先輩に気付かない沢田が台を引っ張ると本を片手に登り始める。

「危ねぇ足取りだな。」

そう思わず呟いてしまう先輩の言葉も頷ける。
やはり台だけでは沢田の身長では届かずに、その台の上に乗ったまま爪先立ちで一冊の本を手にしながら必死に上へと手を伸ばしていた。
グラつく沢田に手を添えようとすると、先輩がオレを押し退けてツナの腰を支えるのかと思っていれば。

「うひゃあ!」

思い切り尻を掴んだ。撫でるというより揉むといった表現が正しい触り方に沢田は悲鳴を上げる。
公然猥褻という言葉が頭を過ぎったが、それは男にも当て嵌まるのだろうか。
ついそんなことを考えてしまうほどのそれに、沢田は顔を赤くしてうずくまりながら先輩を睨みつけた。

「お、お前何するんだよ!」

「目の前でふりふりさせてたから触ってみたくなったんだぞ」

どういう理屈だ。というか変質者の心情じゃないのか。
当たり前のように言い切った先輩は、台の上でしゃがみ込んでいた沢田から本を奪うと、そこから退かせて本を元の位置に差し込んだ。

「これでいいんだろう?」

「…ありがとう。」

素直ではない沢田にその場を引かせる理由を作ったのかと感心しかけていいやと頭を振った。
何故なら台から降りた先輩がしゃがんでいた沢田の腕を引いて立ち上がらせてから、尻をまた揉んでいるのだから。
確かめるように揉みしだく手に慌てて沢田がその場から逃げ出す。

「っ…!何で何度も!」

尻を押さえ、顔を真っ赤にしながら先輩を睨むがちっとも怖くない。むしろ恥ずかしさに眦から滲む涙が零れ落ちそうで色っぽい。
ふとした拍子に表れる沢田の色気に思わずぼうっとしていると、それに気付いた先輩の肘が鳩尾に深くめり込んだ。

「ふぐぅ…!」

「いいか、ツナ。世の中には色んな変態がいるんだぞ。やたらと尻をフリフリさせるんじゃねぇ!」

力説している先輩が一番の変態で間違いない。
2度も尻を揉まれたツナは先輩の言葉の意味を理解出来ずに顔を赤くしたまま、先輩に後ろを見せないようにその場を逃げ出していった。
それを見送りながらも満足気に腕を組んで辺りを睥睨している先輩に、鳩尾を押さえながら訊ねた。

「何してるんですか、あんた。」

「言った通りだ。ツナは無防備過ぎる。男子高校生なんざちょっとの刺激でも勃っちまう生き物なんだぞ、教えておかねぇとな。」

当然のことをしたまでだという顔で頷いている先輩には悪いが、いくらなんでもいきなり襲い掛かるようなケダモノはそうそういない。居たとしてもあんたが見張っていることを知って尚、そんな賭けに出る奴がいるならお目に掛かりたいものだ。

誰が見ても分かりやすいほど沢田ばかりを気にしているというのに、そういえば距離が縮まったようにはみえない。
オレの嘘が少しも効かなかったことを残念に思いながらも、こんなもんだろうなとため息を吐き出して沢田の待つカウンターへと歩き出した。







そんなことがあった昼休みの後、受け持ち教諭の不在で突然自習になったオレは食い損ねた弁当を片手に図書室へと足を踏み入れた。
さすがに教室で弁当を出す気にもなれず、かといって屋上などに出れば教師に見つかった時が煩いからだ。と、いうことにしておきたい。

弁当片手にガラリと図書室の扉を開けると、カウンターには誰も見当たらなかった。入れ違いかと少し残念に思いながらも見渡せば、窓の外を返却された本を片手に眺めている沢田がいた。
何をそんなに熱心に眺めているのだろう。

こちらに気付いた様子もない沢田の視線の先が気になって気配を殺しながら近付くと、丁度体育の授業で中距離を走り終えた先輩が、同じく体育の時間だった女子生徒に囲まれているところだった。
汗ひとつ掻いていない先輩に我先にと自分のタオルを差し出す女子生徒たちは殺気すら漂っている。最近では先輩が図書室に入り浸っているせいで、少しでも接点を探しているためだろう。
それを見てため息を吐き出している沢田につい言葉が漏れた。

「そんなに気になるなら聞いてみればいいだろ。」

「なっ…いつから?」

ビクンと身体を震わせて、やっとオレに気付いた沢田はそんな自分の行動を見られていたことに顔を赤くした。

「っ、別にオレ…リボーンのことなんか気にしてないし。」

そう言って手にしていた本の返却を始める沢田のつむじを見詰めながら近付くと、消えそうなほど小さな声が聞こえてきた。

「オレなんて可愛くも綺麗でもないし…男だし、気持ち悪いだろ。」

オレなんての言葉にカチンときた。

「そんなあんたでも好きな奴はいるんだ!」

「…スカル?」

「オレは、」

と本心を吐露しそうになったところで突然窓がバン!と音を立てて鳴り響いた。
顔を横に向ければ丁度サッカーボールが跳ね返っていくところで、その視界の先には先輩が仁王立ちしてこちらを見ていた。

どんな脚力なんだ。そう思った途端に自分のしでかそうとしたことが馬鹿馬鹿しく思える。こんなに分かりやすい2人の間に入れるものか。
睨む先輩を無視して、音に驚いた沢田に背を向けるとひらひらと手を振って歩き出す。

「あんたがそんなんじゃ、周りが報われない。もう一度、よく考えてみるんだな。」

格好悪いと思いながらも、それだけ呟くと食べる気のなくなった弁当を片手に図書室を後にした。

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