3.ショタコンは罪かと問われれば、見ているだけならなんら罪にはならないと答えるだろう。 だが、手を出したらお終いだ。 未成年にふしだらな行為を強制することすら罪になる。 何、先輩も未成年だって? そんなどこから見てもお色気ムンムンのスキャンダラスキングみたいな顔をして何をぬけぬけと。 「…だからだな、寝床はぜったい一緒にしないことだ。分かったか?」 「…?」 「あぁ。」 綱吉少年は意味が理解できず、先輩はものすごくしぶしぶオレの言葉に頷いた。 あんたの理性が綱吉の情操教育を左右すると言っても過言ではないのだと、不貞腐れてどこかを向いている先輩にガミガミ噛み付く。 どうやら萌えの世界から戻ってきたらしい先輩は、綱吉のためだという言葉にのみ反応しているらしかった。 この人でなしにも血が通っていたということだろうか。それとも愛は人をここまで変えるというのか。 めでたいというよりむしろ怖気が湧くような心持ちで、突然父性愛に目覚めたらしい先輩の顔を眺めていると怖気とは別の寒気が背筋を這い上がりくしょん!とくしゃみが零れた。 先ほどお見舞いされた水鉄砲で制服が濡れたせいだろう。 ぶるっと寒さに震えていると、綱吉少年が先輩のベッドから抜け出してオレの目の前で止まる。 手招きされて思わず膝をついて屈むと、突然綱吉が自分の着ていたパジャマの上着を捲くり上げオレの頭をそのパジャマでゴシゴシ拭き始めた。 「大丈夫?タオルの代わりに拭いてあげるね。」 「なっ…!フグッ!」 眼前に広がる綱吉の柔らかそうな肌とまっ平らな胸に血の気がのぼったオレはバタンと後ろに倒れこんだ。 綱吉少年にしてみればただ単に濡れているオレが可哀想で拭いてくれたのだろうが、間近に迫った綱吉の肌は乳臭さを残しつつもどこか危うい色香がある。 小学生男児になんて淫らなことを想像してしまったのかと自責の念に囚われながらも、目に焼きついた肌の色と匂いとにうっとりしていると頭上に黒い影が現れた。 「…ツナ、ここはもういいから着替えてくるんだ。おにいちゃんはパシリを片付け…じゃない始末…でもない起こしてから朝ごはんに行くからな。」 「うん、分かった。」 パシリさんまたね!と手を振られて思わずパシリじゃない!と切り替えしたところで先輩に首根っこを掴み上げられた。 ニタリと笑う先輩はドス黒い暗雲を背負っている。男の嫉妬はみっともないですよと言える筈もなく、3つほど外傷をこしらえる羽目となった。 それからというもの、本気で父性愛に目覚めてしまったらしい先輩は事ある毎に抜け出しては小学校へと足を運んでいた。 母の日には女装してまで綱吉の学校へと授業参観に向かうほどの熱の入れようにオレもコロネロ先輩も呆れるより他なかった。 海外に転勤中の先輩の父親の元へとちょくちょく出掛ける綱吉の母親は丁度居なかったらしい。 オレが行かなきゃツナが泣くと胸を張って女装をしていた先輩の背中は記憶に新しい。というか昨日の話だ。 どんな美女でも中身は大事なので、いくら先輩がものすごい美人に化けたとしてもドキドキはしなかったが。いや、バレたら綱吉が可哀想だろうとその意味ではドキドキというよりハラハラはした。 とそこで気が付いた。 「ってことは、今あんたと綱吉だけなんですか?」 「そうだぞ。」 山積みとなった生徒会業務もそっちのけで家路に着かん!と支度をする先輩に声を掛けるとそんな返事が鼻歌交じりに返ってきた。 綱吉の母親というストッパーがいればこそ耐えられただろうが、2人きりだなんて狼と子羊を同居させるようなものだ。 いくら外面がいいとはいえ綱吉の母親はこんなショタコンを信頼しているのだろうか。 スキップでもするように軽やかな足取りで昇降口に向かう先輩の後ろを慌てて着いていく。 そんなオレとリボーン先輩を見つけたコロネロ先輩はこれから部活なのか、タンクトップ姿で声を掛けてきた。 「よお!そんなに急いでどこ行くんだ、コラ!」 「ツナとオレの愛の巣だぞ。」 やはり曲解している。こんな危険な先輩と2人きりにさせてはならないとコロネロ先輩に首を振ると大体を察した先輩が急いで荷物を引っ掴んで着いて来た。 「なんだ?てめぇは筋肉使ってないど死ぬんじゃねぇのか。」 「泳ぎ続けないと死んじまうマグロじゃねーぞ!コラ!」 あながち間違いでもないと思うが口は慎むべきだろうか。 そんなコロネロ先輩の豆知識はどうでもいいと、リボーン先輩の後をついていくこと十数分。とうとうリボーン先輩の家の玄関の前まで辿り着いたところで先輩が振り返った。 「てめぇら一体いつまで人の後ろにくっ付いてきやがる気だ!」 「綱吉の母親が帰ってくるまでですよ。」 オレたちを睨み付ける瞳の剣呑さに負けじと睨み返しながらそう言い切ると、やっとオレの行動が理解できたらしいコロネロ先輩が唸り声を上げた。 「なにぃ…てめ、ツナと2人きりかコラ!」 「ウチの弟を勝手に呼び捨てんじゃねぇ、筋肉馬鹿が。」 一触即発の雰囲気をぶち破ったのはやはりといえば当然だがあの呑気な甲高い声だった。 「あれ、金髪のおにいちゃんまでいる。」 ランドセルがこれほど似合うというのも罪作りな綱吉がいつの間にやらコロネロ先輩の後ろに立ってその金髪を見上げていた。 どうやら綱吉はコロネロ先輩の金髪が大のお気に入りらしく、最初の出会いの時にはコロネロ先輩と別れたくないとぐずっていたほどだった。 だからだろう、それ以来リボーン先輩はコロネロ先輩を綱吉に近付けないようにあの手この手を使っていた。 だからこそコロネロ先輩を家に上げたくなくて、ここで撃退しようとした矢先の出来事だったようだ。先輩の驚きの表情からそれが窺える。 綱吉の帰宅時間を把握しているだろうリボーン先輩らしからぬ失態にオレも驚いていれば、綱吉が今日は先生の都合で10分早く帰ってきたんだと告げていた。 「そうか…」 「ねぇ、金髪のおにいちゃんもおウチに寄ってくの?また遊んでくれる?」 キラキラと眩いばかりに零れる綱吉の笑顔に、あからさまに反応しているコロネロ先輩は顔を赤くしてコクコクと頷くだけで精一杯のようだ。 あんたこんな小学生男児にトキメクなんてとんだショタコンだなと吐き捨ててやろうかと思ったが、そういえばオレも鼻血を吹いた記憶があるので大人しくしていた。 しかしまあ、あのリボーン先輩とコロネロ先輩のサバイバルもどきの戦いを間近で見ても遊んでくれたと思えるなんて綱吉は意外と大物かもしれない。 大抵は恐怖に慄いて2人が近くにいると人は散り散りになるというのに。 コロネロ先輩の手を握った綱吉は、それからオレに焦点を合わせて手を差し出してきた。 「パシリさんも!」 「…パシリじゃない。」 いつもなら全力で否定する言葉にも勢いが篭らない。 まだ小さいが白く肌理細かい肌を握り返すとにっこりと笑い掛けられた。 「明日は土曜だから泊まってく?一緒にお風呂に入ろうね!」 「「ブーーー!」」 高校生男子の想像力を舐めないで貰いたい。 うっかり丸裸の綱吉を妄想したオレとコロネロ先輩は同時に吹き出した。 「なっ、ダメだぞツナ!今日はおにいちゃんと入る約束だろう!?」 「ってあんたもダメだっ!」 洒落にならないリボーン先輩から綱吉の貞操を守るため、オレとコロネロ先輩の戦いの火蓋は切って落とされたのであった。 . |